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2010年7月20日火曜日

ドン!ドル!ドン!

■Buenos ドン!ドル!ドン!
 青々と広がる田んぼ、点在する沼、ゆっくりと横切りかいがいしく働く牛たち。垂れ込めた湿気の中たくさんのコメが育つ。
 ハノイの街に入る。オペラ・ガルニエを模した劇場。ノートルダムに似た聖堂。喧噪に不似合いな洋風の住宅。フランス統治の名残がところどころ。
 自転車リヤカー「シクロ」に乗ってみる。2ドル。4万ベトナム ドン。
 歩道にはしゃがみ込むように低いイスに腰掛け、ベンチに置いた弁当を食う若者たち。地べたに尻をついて炊飯器を囲む家族。コメ食うひとびと。犬。猫。歩道は彼らに占拠され通れない。見上げると、おびただしい電線。一部が切れて地面に落ちているのがある。



 向こうから押し寄せる無数のバイク。無意味なクラクション。横を駆け抜けたバイク3人乗りは子どもじゃなかったか?ベトナム戦争の記録映画でよく見る傘をかぶり、肩にかついた棒で前後のカゴを運ぶ老女。中には大きな瓜とパパイヤ。
 アジアだ。
 低く濃灰色の雲が被うホアンキエム湖の周りはマラソン大会。緑色の制服を着た大勢の警官が沿道で所在なげに突っ立っている。その横には、太い竹パイプに火をつけて、吸っては吐く老人たち。通過する走者たち。赤、青、黄のユニフォームをまとった走者たち。その半数は裸足だ。走れ、走れ。



 異国に来ると、街のサイネージやマンガ・アニメを点検して回るのが仕事だが、今回は解説すべきこともないので、少年タケシ「それでもポップか!」風にスケッチします。

 ハノイ在住のアインさんは言う。
「日本? 知ってるよ。ドラえもん、ドラゴンボール、コナン、ナルト、ポケモン。ファイナルファンタジー、ドラクエ。」
 すらすら出るね。テレビドラマは?
「うーんと。 おしん。ぐらいかな。韓国ドラマのほうが見るね。」
 有名な日本人って誰だろう?
「ヒデトシ・ナカタ。誰でも知ってるよ。」
 そうなの?ぼくが10年前にモロッコ行ったときも、ナカタナカタって現地の若者が寄ってきたけど、まだ日本はナカタで食ってるのか。10年間、ヒーローを生んでないってことか。

 路上の市場は一人通るのがやっとだ。
 そこをおかまいなしにバイクが侵入し、音をたてて客を蹴散らす。
 モロッコの市場、狭い通路をロバの楽隊が全速力で駆け抜けていたことを想い出す。
 彩とりどりの果物。
 ドラゴンフルーツ、ライチ、ドリアン。
 水をなみなみと張った桶には、スズキ、雷魚、うなぎ、ナマズ、スッポン。
 ウズラ、カエル、豚足。
 果物も野菜も魚も獣も、目の前で鮮やかにかっさばく。
 皮をむき、ぶつ切りにし、そのまま買われていく。
 高温多湿の空気、天井をなすようにうっそうと上部を被う熱帯樹が作り出す影の下、それらがみな新鮮で、みずみずしく、清潔で、元気。

 いいぞ、アジア。

 もう晩だというのに、家電店には大勢の人だかり。
 炊飯器売り場がやたら広い。たくさんのコメが食べられる。
 スーパーの入口にはアッパッパーを着た60前後のおばさんたちが大声でもめている。
 ドン!ドル!ドン!ドル!ドン!

 元気だなぁ。アジアだなぁ。
 近づいてみると、つぶさに声が聞こえる。
「えーこれドンちゃうの!」
「ドルや言うてるやんか!」
「ドンやないと使われへんみたいやで!」
「そやからドル換えとき言うたやんかドンに!」
 ありゃ。
 大阪のおばさんたちでんがな。

 ドンならんな。

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