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2013年1月31日木曜日

45年後の「巨人の星」

■45年後の「巨人の星」
 年越しはインド・コルカタでした。
 宿のテレビをつけたら、「SURAJ」(スーラジ)が始まりました。インド版「巨人の星」。
 前の週に開催された知財本部コンテンツ専門調査会の新ラウンドで、初参加された講談社野間社長が新しいクールジャパンのモデルとして紹介していました。

 アニメ「を」売る、から、アニメ「で」売る。
 そのスポンサーはスズキ、ANA、ダイキン、日清食品。
 クルマや旅行、クーラーやインスタント食品。
 昭和40年代にぼくらが憧れた暮らしを、アニメを通じてインドにも届けます。


 SURAJは野球ではなく、クリケットの物語。
 重いコンダラも、オロナミンCのCMも出てきません。
 でも父親は食卓をひっくり返してくれるし、いきなり養成ギブスも出てくるし、長髪のライバルは高級車(スズキ)に乗ってるし、だとすればいずれ魔球も登場し、オーロラ三人娘も現れるかしら。
 大リーグのオズマ役は、クリケットの本場イギリスからやってくるのかしら。

 45年後の巨人の星。

 日本での放映は68年~71年。
 思い出します。
 68年の夏。当時通っていた小学校の裏手にあった静岡商業高校、1年生本格左腕エース新浦寿夫。安倍川沿い、台風のたびに流されてしまうバラックの集落のヒーローは、甲子園決勝に進み、大阪・興国高校に1-0で敗れた。
 事情があり、1年生で巨人軍に入団。
 まるで巨人の星そのままです。
 ぼくは学校の図画の時間、甲子園準優勝で市内パレードした新浦さんの絵を描いたことを覚えています。
 そのとき背番号を甲子園エースナンバー1ではなく、飛雄馬の16にしました。
 巨人の星は、身近な現実でした。

 由紀さおりさん「1969」が米iTunesジャズチャート1位を獲得しました。

 69年にデビューし、40年ぶりにそのまま世界に飛び出した。
 それが喝采を浴びたのです。
 巨人の星と由紀さおりさん。
 同時代のアニメと歌謡曲、この日本メインカルチャーを代表する2ジャンルが今になって世界に出て行くのは偶然ではありますまい。
 当時のギラギラしたエネルギーの発露が、もはや国内に置き所がなく、外に場を求め、外からも評価される。
 それなら、まだまだネタはありましょう。

 当時、ぼくらは夢を描いていました。

 子どもは高度成長なんて言葉は知りませんでしたが、オリンピックや新幹線から4年後、八木治郎「大阪万国博覧会を再来年に控えてお届けする万国ビックリショー」というインド人が剣を飲み込む番組もこれあり、未来は明るく開かれている高揚感がありました。
 ただし、オリンピックの年には、芦屋雁之助さんが飛び上がって「インド人もビックリ」というSBカレーのCMがあり、72年にはインドの山奥で修行するレインボーマンがオンエア。
 子どもにとってインドは遠く、うさんくさい存在でありました。


 45年の間に日本はアズナンバーワンに成長し、弾け、20年を失い、衰退と言われるまで浮き沈んでいます。

 インドはどうでしょう。
 バンガロールのITベンチャーのように、45年前の日本を凌ぐ世界最先端の輝きをもつ分野があります。
 2030年には12億人と世界一の人口をもち、国際社会への発言力が増すことも予測されています。

 一方、現実に転じれば、特にコルカタという特殊な街では、当時の日本にはもう見られなくなっていたすさまじい格差があります。
 終戦直後のヤミ市でもここまではと思わせる壮絶な雑踏。
 腕のない物乞いの老女。
 足を切り落としたと思われる物乞いの子ども。
 すわり小便をする男。
 うろつく犬、犬、犬。
 路上に生まれ、路上に暮らし、路上に死んでいく人が数百万人と言われるコルカタ。
 歩道が住まいと化していて、人が寝たり談笑していたりするだけでなく、炊事も洗濯もおかまいなしなので、街を歩くには人様の住まいに入り込んでいくしかありません。
 バングラデシュ難民が入り込み、インドの中でも最も雑然としたエネルギーを発散するコルカタです。


 それでもどうやら成長しているようです。
 70年代や80年代に書かれた旅行記には、野良牛やリキシャ(人力車)のことが数多く描かれています。
 しかし、つい最近までいたという野良牛は姿を消していました。
 牛は神聖で殺せず困惑していたところ、数が増えすぎ、行政が乗り出して、遠くに収容したそうです。
 リキシャは97年に新ライセンスを停止し、いずれ消えゆく運命です。
 代わりにレトロなデザインの黄色いおんぼろタクシーがあふれていました。近代化は進みそうです。


 18世紀にはまだ虎やヒョウがいたというモイダン公園では、おびただしい数の人たちがクリケットに興じています。
 大人に混じり、多くの少年たちが瞳を輝かせています。
 SURAJを見て、プロ選手を夢見て、魔球を編み出そうとする、45年前のぼくらのような連中。
 君たちは、開かれた高揚感を共有しているでしょうか。
 コルカタのシネマテークでは、子ども映画フェスタが開かれていました。
 海外の優れた作品が上映され、子どもの視線を開いていました。
 子ども博物館には、世界の人形が展示され、これも外に目を向けさせていました。

 しかし、TIMES of India紙の元日号では、一面で「21世紀生まれがティーンズ入りしてフェイスブックに参加、社会に軋轢が起きるだろう」と論じています。
 デジタルはここにも急速に浸透します。
 巨人の星が45年かかったのと対称的に、ITは瞬時にして、インドも日本も同時に若い世代を塗り込めます。

 インドは巨人の星を消化し、成長を謳歌するでしょうか。

 デジタル化が近代化を促すでしょうか。
 あるいは、グローバル化や民主化の圧力が混乱と社会不安を増長するでしょうか。
 ぼくにはわかりません。
 ただ、45年後とは言わず、数年後、インドの子どもたちにとって、日本が遠く、うさんくさい存在になっていないことを願います。

2013年1月28日月曜日

知財戦略 過去10年と未来10年

知財戦略 過去10年と未来10年

2013年1月25日、「知的財産政策ビジョン検討ワーキンググループ」が発足しました。
知財本部設置から10年。これまでの10年の政策を点検し、今後10年の方向を打ち出そうというものです。
知財本部にはぼくが座長を務めるコンテンツ部門と、競争力強化・国際標準化部門とがありまして、それらを束ねる役割です。
委員は角川歴彦さん川上量生さん久多良木健さんら、コンテンツ調査会でご一緒しているかたがたのほか、凸版印刷足立会長、野間口産総研理事長、山口味の素会長、渡辺トヨタ相談役など重いメンバー。大学関係者は村井純、國領二郎、ぼくの慶應トリオです。
このワーキングは、妹尾堅一郎先生と共同座長を努めることになりました。

冒頭、過去10年の検証ということで、下記を骨子とする政策レビューがありました。
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コンテンツ関連
 1. デジタル化・ネットワーク化の基盤整備
 2. クールジャパンの推進
 3. 模倣品・海賊版対策の推進
 4. コンテンツ人財育成
競争力・国際標準化
 1. 知的財産の創造
 2. 知的財産の保護
 3. 知的財産の活用
 4. 中小・ベンチャー企業の知的活動支援
 5. 国際標準化戦略の推進
 6. 知財人財育成

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これに対するぼくのコメントをメモしておきます。

 10年前にはスマホもタブレットもなかった。地デジもブロードバンドも整備中だった。ソーシャルサービスもなかった。
 今やデバイスも、ネットワークも、サービスも様変わり。しかもビジネスが全てボーダレスに移行した。
 コンテンツ政策はこの数年で変化はしてきたが、もはや断層的な転換が必要となっている。
 ビジョンを作り直すにはギリギリのタイミング。
 10年前、コンテンツ分野には成長産業という期待もあったが、今や悲壮感をもって立ち向かう必要がある。

 コンテンツ政策はこの3年で変換した。
 1 著作権制度で守るスタンス以上に、プロジェクトを開発して攻めるスタンスに移行した。
 2 エンタメより基盤整備:インフラや人材育成に力を入れるようになった。
 3 国内だけでなく海外展開に注力するようになった。
 2013年の計画も、デジタルネット対応(基盤整備)とCJ(海外展開)の2本柱で進める計画だ。

 このWGで扱う長期的な観点では3点ある。
 1 基盤整備  
   重点コンテンツをエンタメから拡大すべき。
   ネット選挙解禁、医薬品ネット販売解禁もコンテンツ政策とも捉えるべき。
   デジタル教科書の完全普及、オープンデータ:政府保有情報のオープン化と利用フリーなど骨太の施策が必要。
 2 海外展開  
   こちらも骨太の施策が求められる。
   海外メディア枠の買収、輸入規制緩和など。
 3 政府の一体化
   8省庁が一つのテーブルで施策をぶつけ合うようになったが、これを前進させる。
   特に、ハードソフト一体の政策が重要。
   オープンデータも、デジタル教科書も、コンテンツ政策とIT政策の複合がポイント。

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委員からは鋭い意見が噴出しました。
 

○ドワンゴ川上さん:「自主規制」が日本企業のウィークポイントになっている。強い規律のせいでガラケーはiPhoneに競争力を失い、同様のことがソーシャルゲームでも起きる。「NDA」も問題。プラットフォーマーとコンテンツとの取り決めが開示されないため、コンテンツ企業がネットユーザに叩かれる構図となっている。
 

○中山信弘さん:アメリカではできるビジネスが日本では不可能という事例がある。政府規制だけでなく、自主規制や業界慣行を見直す必要がある。
 

○久多良木健さん:10年間の最大の変化は、消費者がユーザとなり、コンテンツの生産と共有の主体になったことだ。UGCに着目する必要がある。
 

○國領二郎さん:10年間で知財はどれだけ増えたのか、ビジネスはどれだけ拡大したのか。そうした基本的視点が重要。
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ううむ、大変です。
まず、自主規制、契約がネックになっている」との指摘。
10年前は、官から民へという動きのもと、公的規制を撤廃・緩和することに力を注ぎました。
それで民間に舞台が移管し、10年たったら、今度は民民の規制が問題だというわけです。
私もソーシャルゲームの自主規制に汗をかいているところですが、指摘のような問題は既に表面化しています。
日本の業界は自分で自分を縛るのに、外国企業はフリーハンドでビジネスを続ける、という構図。
さあどうしよう。

そして、「知財は増えたのか」という根本的な視点。
ストックではなくフローのデータですが、世界のコンテンツ市場が年6%で拡大する一方、日本市場は縮小傾向にあります。
しかし、ぼくの計算では、過去10年間で、日本の情報発信量は30倍に増大しています。久多良木さんのいうUGCですね。 
M2Mやビッグデータの活発化により、今後数年で300倍になるという声もあります。
他方、マッキンゼーによれば、この10年に蓄積された情報は、北米3500ペタバイト、欧米2000ペタバイトに対し、日本は400ペタバイト、つまりアメリカの11%にすぎないといいます。
従来は産業規模の拡大を国の目標に据えていたのですが、情報量や情報流通行動などに目を向けることが重要になっています。
戦略をゼロベースで見直さなければならない、ということです。

ううむ、これをどうとりまとめていくか。

あたまいてー
みなさん、知恵をください。

2013年1月26日土曜日

速報:デジタル十大ニュース2012

■速報:デジタル十大ニュース2012
デジタル十大ニュース2012、ネット投票の結果が出ました。
投票合計743でした。みなさんありがとうございました。
渋谷で開催したデジタル新年会のステージで発表した際にぼくがコメントした内容とともに、速報まで。

10位 ビッグデータは宝の山?
 いま最注目のワード。ユビキタスが15年かかってやっと来ました。
 スマホやセンサーからデータがガンガン出てくるし、
 政府もデータをガンガン出す姿勢です。
 ただ、それをどうビジネスにするか、誰も見えてはいません。 
 みんなにチャンスがあります。オープンデータ運動、がんばります。

9位 スマートテレビ始動:放送、通信、メーカーの本格対応
 地デジ後、通信放送融合後のサービスがやっと見えてきました。
 テレビ局も通信会社もメーカも本腰を入れています。
 日本はアメリカとは違う形で市場が立ち上がっていくんでしょう。

8位 アノニマス大暴れ!ACTAとか霞ヶ浦とか
 やられましたねぇ。
 霞ヶ関のかわりに誤爆された霞ヶ浦の事務所は災難でした。

7位 遠隔操作ウィルスで警察手玉に取られる
 これも同様のサイバー攻撃。トロイの木馬。
 まだ犯人つかまらず。手練れの仕業です。
 つかまえたら警察は数億円積んで雇うのがいいと思います。

6位 ソーシャルなデモ多発:原発やら反日やら
 中東でジャスミン革命、ロンドンやNYでも格差デモ、
 ソーシャルサービスがリアルな世の中を動かしています。
 日本の場合は社会運動といっても韓流デモみたいに緩いかんじ。
 日本的なソーシャル社会が来ている、というニュースですね。

5位 炎上大国ニッポン:市長も社長も教育長も
 炎上問題が1年で3倍ぐらいに増加しています。
 昨年は大津いじめ問題が大炎上。
 昨日も桜宮高校の女の子がしでかしてます。
 日本は炎上大国なんです。
 昨年、ニューメディアリスク協会を設立して
 対策に乗り出しているんですが、まだまだ続くと心得てください。

4位 コンプガチャ問題
 お騒がせしております。
 GREE、DeNA、mixiなどが中心になって11月にソーシャルゲーム協会を設立、
 ぼくが事務局長になって、謝る毎日です。
 健全化には力を入れますけど、ソーシャルゲームは数少ない成長産業でもあります。
 国際競争力を発揮すべく努力していきます。

3位 違法ダウンロード刑罰化
 パーティー会場には、音楽・映像業界のかたが多数お越し。
 業界は期待しているかもしれませんが、ここには学生も多数。
 ヘタにダウンロードするとお縄になるんで、ビクビクしとります。
 レコチョクが定額サービスを始めるというニュースもありました。
 コンテンツビジネスがダウンロードからクラウドのストリーミングに向かう、
 その号砲ということでしょうね。

2位 LINE8000万人、無料通話ソーシャルサービス戦国時代へ
 なにせスゴいのは、投票を始めたときには8000万人ユーザだったのが、
 もう1億人超えのニュースが入っていること。すさまじい。
 他社も次々とスタートさせています。
 新しいバトルです。

1位 どないしてん日本家電産業
 で、やはりこれが1位です。
 目の付けどころがアレだった会社もアレで。
 島耕作さんも社長退任だそうで。
 関係企業に多数ご来場いただいておりますが、
 今年はどないなりまんねん。


 さて、2011年の十大ニュースでは、マルチスクリーン、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスというでっかい構造変化がハッキリしました。
 2012年はそのマイナス面、ガチャ、炎上、家電の落ち込みといったゴタゴタが出た反面、スマートテレビ、LINE、ビッグデータ、といった次の市場も見えました。
 2013年はこのプラス・マイナスの動きが加速して、次の方向がハッキリし、勝ち負けが分かれるんじゃないでしょうか。
 ところで、ネット投票〆切直前の攻防が激しく、「ソフトバンク、スプリント買収」が圏外に落ちたのが意外でした。孫さんが電力からコッチに帰ってきたと思いきやアメリカに行っちゃって、さてどうなるか、これも楽しみなニュースなんですけどね。

2013年1月24日木曜日

デジタル教科書は第2ステージに

■デジタル教科書は第2ステージに
 もうやめよう。説明するのは。バカていねいに。もう場面が変わった。アホにはアホと言おう。
 そう確信したのであります。
 デジタル教科書・教材協議会(DiTT)のシンポジウム。2012年12月19日、秋葉原。
 総選挙から3日後、政権交代が確定しながら、新政権がどういうスタンスで来るかわからない段階。
 ぼくらはもう政府に期待をしすぎない。それより、地方、地域、学校現場のミクロで、力強く運動していく。

 そこで。
 佐賀県武雄市樋渡市長、大阪府箕面市倉田市長、東京都荒川区西川区長。
 デジタル教科書の普及を推進する3自治体の首長に登壇いただき、お尋ねしたんです。
 教育情報化を進めることに、こんな疑問が寄せられてるんですが、って。
 すると、いずれもアホちゃうか、ってボコボコにされたんです。
 いや、ぼくが疑問を持ってるわけではないんですがね、いつも突き上げられてることを伝えたら、そんなんに答えられない「お~ま~え~は~あ~ほ~か~」横山ホットブラザーズ状態にさらされたわけです。

質問その1「教育情報化の効果、成果を示せと攻められるが、どうする?」
・そんな議論がまだあることが情けない。成果なんて、出尽くしてる。
・紙の教科書や鉛筆を入れた時にそんな問いがあったか?
・それを聞くヤツは会社の情報化の成果を示せと迫ったんか?
 そう、成果は出尽くしてる。100年後も効果や成果を問うことはできる。だから、それを待ってたらいつまでも実施されません。紙の教科書を入れた成果だって今も問うことはできるでしょ?質問に乗ってはいけない時期に来たということなのでしょう。

質問その2「教育情報化の予算、財源をどうするんだ?」
・それを何とかするのが首長の役割だ。やるということが第一で、手段は第二。
・予算や財源を持ち出すのは、やらない理由に過ぎぬ。
・教育情報化に課題なんてない。必要なのは、首長のやる気である。
 そうか、課題なんてないんだ。それを上回る意志があるかどうかなんだな。
 このシンポには橋下政権の大阪市教育センター沢田さんにもお越しいただきました。この分野で遅れを取っていた大阪市は、今年から実証研究を始め、2015年に全市でデジタル教科書の展開を計画しています。ビックリ。むろん首長が爆走して「やるぞ」って勢いなわけです。やはり「一気にやる」パワーは、首長の心づもり一つだそうです。

質問その3「学校をネットでつなぐとプライバシーが流出するとか言われるんですけど。」
・ハァ? アホか。
・やらない理由を唱えているだけ。
・何か流出したのか?して困ったのか?そんなこともないのに怖がって止めてるのか?
 いや、そうなんです。これに関しては楽屋で小宮山DiTT会長(前東大総長)も、「問題があるなら裁判起こさせりゃいいんだよ、日本は大抵のことは合法でスルっと行けるんだよ」と話してましたが、とにかくこの未然に問題を減らすためにコトを起こさないビビリ感が、10年以上日本を覆う最重要問題でありまして、その空気を換えなければいけません。

 首長さんがたからは、いろんなメッセージがありました。
「先生や生徒のリテラシーなんかいらない。使わせればすぐ使えるようになる。」「先生たちはみなおもしろがっている。先生に拒否感があるなんてのはデマ。」「隣の地域で導入してるのにウチではなぜできてないのという、保護者の嫉妬をあおるのがいい。」「学力がどうなるかより、子どもがどう変わるかが大事。」「校長先生に自由に使える資金を渡している。創意工夫が重要。」「タフな端末と、バッテリー改善がカギ。」
 う~ん、全部ささってきます。
 文科省上月審議官、総務省阪本政策統括官というイケイケ官僚2名にも登壇いただき、進めようよという力強いメッセージもいただきました。そう、今回は4自治体にお越し頂いたんですが、これを早く50自治体に広げようと思います。
 
 申し遅れました。パネルに先立ってぼくから活動報告したんです。プレゼン原稿置いときますね。
「DiTTは今年の4月に提言を発表。デジタル教科書実現のための制度改正を求めた。政府、政党に働きかけを行った。それまでタブーとされてきたことだが、もうその時期だと判断し、切り込んだ。その2ヶ月弱後、政府がそれら制度改正を検討することを知財計画2012で正式決定した。場面が切り替わった。大きな政策転換が行われることが期待できるところまできた。
 その手を緩めず進めるため、デジタル教科書法案を自ら準備しようということで国会議員、官僚、弁護士など法律の専門家も入ったWGをDiTTの中で作り、3つの法律の定義を直す、といった具体的な制度改正案を作った。また、デジタル教科書の標準化も重要課題になると考え、現在その活動に力を入れている。
 一方、政府の実験が仕分けに会ったり、またしても選挙で方向が不明確になったり、政府に頼ってもいられない。そこで6月、宣言書「ステイトメント」を公表した。制度改正や予算拡充を求めるものだ。広く有識者の賛同を求めた。各界のかたがたから賛同を得たが、何よりも驚いたのは、1月以内に50もの地方自治体の首長のかたがたから賛同が寄せられたこと。被災地の町長、23区の区長、政令市の市長、県知事などさまざま。自治体や学校など現場に近いところが主導していく。これが本来あるべき姿。そうした機運がここに来て一気に盛り上がってきた。デジタル教科書の推進運動も第二ステージに入った。」

 ニコ生は3万人の参加。熱は感じます。今回の政権交代はこの活動にとってラストチャンスだと思います。2013年には場面を切り替え、全国の推進セクターとともに、体重の効いた歩みで揺るがしていきましょう。

2013年1月21日月曜日

ネットの自由と著作権

■ネットの自由と著作権
福井健策さん"「ネットの自由」vs著作権を読みました。
「著作権とは何か」「著作権の世紀」に次ぐ著作権新書。
TPPの知財論議を知る必読書です。
数点メモしておきます。

○保護期間延長、非親告罪化、法定賠償金制度などTPPの知財問題を個別解説しています。
→いずれも重要問題。
 学生に出題:ユーザ、コンテンツ業界、IT業界にとってのメリデメは何か?

○法定賠償金などに懸念を表明しています。
→でも、導入されたら弁護士はオイシイよね?
 立場ありきでなく、公益で是非を問う福井弁護士の真骨頂が表れてます。

○ミュータ事件判決で日本ではクラウド事業が難しくなった件。
→これでコンテンツ業界は安心したかもしれない。
 でも、結果、コンテンツ業界はプラットフォームをアメリカに取られ、
 莫大な事業機会を逃したのでは。
 目先のコブを潰す裁判より、長期の事業を創る汗を!
 コンテンツvs ITの国内対立は、アメリカにとっては蜜の味がするはずです。

ダウンロード刑罰化を検証すべきことを説いています。
→さもなければ次に「非親告罪化」が来るかもしれない。
 ダウンロード刑罰化は何とかなるが、非親告罪化、
 つまり当局にバシバシ取り締まる権限を与えることは、怖いですよ。
 取り返しがつかない道ですよ。

○初音ミク、クリプトン作成の公式イラストは3点だが、ユーザ投稿サイト上には45万点。
15万倍の二次創作力が日本の強み。これを活かす制度や仕組みがあるはずです。
 ぼくはその力を最大限に発揮できる環境の整備に力を注ぎたい。

○全米映画協会が日本のフェアユース導入に対し自国制度を導入するなと反対意見を述べた。
→保護期間延長、非親告罪化、法定賠償金制度など権利者が強くなる措置は押しつけてくる。
 でもフェアユースのような利用者が強くなる措置は反対する。
 自分たち=権利者に都合のいいことだけを押しつけてくるリアリティーを理解しておこう。
 日本は権利者と利用者のバランス=著作権制度は比較的理性的に線を引いています。
 TPP論議にしても、日本の産業にとっての得失、権利者と利用者の双方の立場、
 それらをデータも用いて分析し、意見調整すべきと考えます。
 
○著作権登録制、集中管理促進、報酬請求権化、フェアユース拡大を提言しています。
→細かい点は議論したいんですけど、方向として賛成。
 この政権ではこれを軸に議論スタートでいいんじゃないでしょうか。
 どうですか、関係者のみなさま。

今回の著作権法改正に入った国会図書館の絶版資料配信を
流通促進+創作者還元の試みと評価。
→ふーん、そうなんだ。福井さんがそう評価するか。
 これはぼくも文化庁での議論に参加してガクガクやりましたが、
 もっと突っ込んでゲインしてもよかったと反省してます。

"4-1 機能不全に陥る著作権法、「著作権ムラ」批判と議員立法"
→ タイトルが示すとおり。最重要問題です。
 著作権法論議が権利者と利用者の戦線を画定する毎年のバトルとなっており、
 実力が均衡してニッチモサッチモいかない。
 海外でのバトルでは新兵器が次々と投入され、
 それらは海を渡って勢力図を塗り替えているのに、
 国内の軍閥が旧来の闘いを続けている。
 その法スキームを前提に和平を語っても未来はないと思います。
 より重要なのは、その和平手続がしぼんでいること。
 著作権ムラ というのは、あります。
 ぼくは文化庁の委員などを務めていますが、未だアウェー感に満ちていまして、
 それはムラに身を置いているとじんましんが出そうだからです。
 産業界のステイクホルダーはいい。利益を前面に押し出すのが正しい。
 利用者も同様。
 でも、アカデミックな分野の村民は、何を達成しようとしているのか。
 提供・利用のガチンコ戦争の場において、
 国内に数百名はいますかね?著作権を生業とする学者はどういう役に立っているのか。
 IDを問い直すべきと思います。ぼくも胸に手を当て。
 そして、議員立法。
 フェアユースにしろ、補償金にしろ、
 審議会でコンセンサスを得る行政スタイルが暗礁に乗り上げている中で、
 議員立法は有力なアプローチではあります。
 決められない政治を脱する手法ではあります。
 ただ、今回の違法ダウンロード罰則化のように、
 著作権ムラを無視して審議会をすっ飛ばすだけではなく、
 国会の論議もオープンな意見交換もほとんどないままロビイング一本で行くのは、
 対立するハード陣営や外資も、逆に次はよりパワフルにやれまっせという話で、
 大丈夫なの?と心配になります。
 だいいち、アカデミックは不要、政府論議も不要、ということなのに、
 ムラから批判の声を聞かないが、それはいいんでしょうか。
 まぁ、いいのかな。
 TPPという うんと大きな波が来る前に、
 立法と行政の関係をゼロから考え直すキッカケになるということで。

2013年1月18日金曜日

知財本部2013スタート

■知財本部2013スタート
知財本部コンテンツ専門調査会の2013年審議がスタートしました。
ぼくが会長に就いて4年目の知財計画作りとなります。

前回の会議で、政府の態度を示すためにも、この会議には大臣に出席してもらいたいという指摘が別所哲也さんからありました。昨日の会合では、山本大臣、島尻政務官が揃って出席。政権は改まりましたが、知財本部が発足したのは10年前の自民党政権ですから、この分野を強化する方針は不変、といいますか、一層力を入れてくれることを期待します。
ただし、知財本部では10年にわたる検討が進められてきました。知恵は出尽くしているくらい出ています。画期的な新機軸はなかなか期待しづらい。各種政策にどう優先順位をつけ、どう踏み込むかの決断が重要な段階です。実行、です。その点、コンテンツ政策では韓国がよく例に出されるんですが、日本との違いは、政治を含む「気合い」です。これを求めたい。
重点を置くべきと思うことは3点あります。
1. 海外展開の強化。海外のメディア枠を買う、輸入規制を撤廃してもらう、そうした思い切った手が必要です。
 今回、補正予算でコンテンツ海外展開に170億円が計上されました。のっけから、政府のやる気が見えます。
2. 国内は基盤整備。長期的な底上げを図ること。子ども全員にデジタル教科書を使わせる、政府や自治体の持つ情報を著作権フリーで開放させる、といったこれも思い切った手が必要でしょう。
3. 政府の一体化。多くの官庁が一つのテーブルについて、前向きに取り組んでくれるようになりました。これをグイと進めて、ITとコンテンツ、ハードとソフトが一体となった政策や、多くの官庁を横串にした政策が重要です。これも政治主導で行ってもらう必要があります。
プランを立てること以上に、実行と成果が求められます。政治には強力に引っ張ってもらいたい。
昨日、山本大臣は「安倍総理に "文化総理宣言"をしてもらいたい」と話していました。そうです。フランスのコンテンツ政策は大統領が自らアナウンスすることが多い。文化国家たるもの、国の代表にその意識を持っていただきたい。

昨日の会議で、本年の検討をデジタル・ネットワーク化(基盤整備)とクールジャパン(海外展開)の2本柱で進めることが了承されました。議論の冒頭、ぼくから「状況認識」の私見を話しましたので、記しておきます。

1 デジタル化・ネットワーク化
 デジタル化、ネットワーク化が本格化して20年。新しいビジネスチャンスが広がっている。
 特にこの10年間で、コンテンツが注目を集め、著作権法を改正してデジタル化に対応するなどの政策が採られてきた。
 しかし、コンテンツの利用や情報の生産は爆発的に増大する一方、コンテンツ産業は拡大するどころか縮小傾向にある。
 さらに、この数年、マルチスクリーン、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスといったメディアの刷新が起こっていて、デジタルやネットワークは新しい段階に入った。
 その中で、日本のコンテンツ産業はプラットフォームのグローバル競争にも勝利できていない。
 また、教育、行政といった分野でのコンテンツの生産と利用も遅れている。
 こういう状況の中、もちろん権利の保護は重要な課題であるが、世界的なデジタル化・ネットワーク化に対応して新しい産業と文化の発展を続けるためには、権利者と利用者の利害対立、ハードとソフトの対立といった構造を超えた、総合的な制度設計や新分野の創造が必要。
 コンテンツを我が国の経済と文化の原動力として推進するための戦略を実行すること。その政策のプライオリティを高めていくことが重要。

2 クールジャパン
 クールジャパンという言葉が使われるようになってこれも10年になる。
 日本の現代文化は、クールジャパンとして世界の共感を得ている。
 その共感は、マンガ、アニメ、ゲームといったコンテンツにとどまらず、ファッション、食、伝統工芸、観光などに広がっている。
 さらに、工業デザイン、サービス水準、家族経営、生活様式、といった経済・文化全般に注目が集まっている。
 こうしたソフトパワーを経済成長につなげるために、海外市場を取り込むことがわれわれのミッションだ。
 手法としては、メディアやイベントでの情報発信を強化するというアウトバウンドが第一。さらに、人も技術も取り込んで、日本を本場に、産業文化の増殖炉にするというインバウンドがもう一つ。
 コンテンツやファッションなどの競争力ある産業分野を横断する施策に政府も民間も力を入れるようになったが、本格的な成果が上がるのはこれから。
 重要なのは、クールジャパンの力をきちんと認識すること。
 2つあると考える。一つは総合力。文化の力、コンテンツやデザインを産み出す力と、技術の力、高品質な製品やサービスを作るものづくりの力、この文化力と技術力の双方を持ち合わせる総合力が、古来から培ってきた日本の強み。
 もう一つは、国民の、庶民の、みんなの力。日本のポップカルチャーは限られた天才というより、みんなが庶民文化として育んできたものであり、いわばソーシャル力。ネットワークでみんながつながる時代は大いなるチャンス。
 しかし問題は、その力を日本人が認識していないこと。
 ある米企業の国際調査では、世界で最もクリエイティブな国は日本だという評価が圧倒的第一位だったのに対して、日本人だけが日本のことをクリエイティブだと思っていないという結果。
 クールジャパンという言葉も海外から入ってきたものであり、日本が自らを評価したものではない。
 自ら点検し、評価しつつ、外に出て行くことが重要。

さて、これらを受けて、いつものようにさまざまな意見が出されました。政府データ・情報を著作権フリーにする主張や、孤児著作物の利用促進策などが提案され、スタートから取りまとめの大変さを予測させます。それ以上に、「コンテンツ」の概念を改めよという指摘が相次ぎ、環境の変化を認識させました。主な論調は2つ。
1. パッケージからの脱却
 これまでパッケージ・コンテンツを中心に施策が組み立てられてきたが、もはやユーザ経験がより重視されている状況であり、コンテンツという言葉自体も見直すべき。ソーシャルゲームのようなダイナミックなコンテンツが重きをなしている。アプリを念頭に施策を考えるべき。といった、クラウドでソーシャルの情報環境を軸に据えた組み立てが必要という指摘です。
2. エンタメからの脱却
 ユーザジェネレイテッド・コンテンツの広がりを戦略として捉えるべき。オープンデータ、ビッグデータをコンテンツ政策の観点で考えるべき。教育情報化をコンテンツ政策として推進すべき。これまで議論の中心をなしてきたエンタテイメント産業からスコープを広げよ、というものです。これはぼくがこの10年ほど言い続けてきたことですが、やっと多くの口から立ち上るようになりました。
これから大変な季節となりますが、みなさんのご指摘・ご批判をいただきながら、進めてまいります。よろしくどうぞ。

2013年1月17日木曜日

IPDC@InterBEE2012その2

IPDC @InterBEE2012その2
 IPDC。アイピー、データキャスト。
 放送の電波を使って、IPプロトコルという通信技術でデータ配信することです。
 放送と通信の融合。その普及を目指して、「IPDCフォーラム」を立ち上げたのが2009年。
 ①規格化の検討、②使い方の検討、③制度化への要望に取り組んできました。
 ぼくが代表を務め、放送、通信、メーカ、ソフトウェア、広告など会員は40社を超えます。
発足当時のことはここにも書きました。
 当時、放送の電波に通信技術を乗せ、ハード・ソフト分離、通信・放送サービス混合、有料・無料コンテンツ混合、なんてことを実現することは、技術的にはできても現実には夢のまた夢。このため、ユビキタス特区を作れだの、法体系を抜本改正して融合法制を作れだの、そんなことを叫んでいたので、鬼っこ扱いでありました。
 しかし、地デジの全国整備が見えてきて、ブロードバンドの全国化も見えてきて、GoogleやらAppleやらも攻めてきて、事態は急変、特区も法制もどんどん実現し、3年経ってみたら、IPDCにやおら脚光が当たっています。

 放送展InterBEE2012では、IPDCフォーラムとしてブースを出しました。放送局主導でマルチスクリーンをコントロールする技術の具体像を示そうとしました。特に大阪の放送局を軸に発足した「マルチスクリーン型放送研究会」(マル研)の成果を展示。12テレビ局、15番組が参加しました。
 その際、シンポも開いて現状報告を致しました。ちょっとこの会場デカすぎるだろう!という場所を幕張メッセに用意したんですが、立錐の余地もないご来場。おやまぁ、ぼくらの認識以上に業界は注目しているんですね。
 実はブラジル・サンパウロ大学のズッフォ教授もお越しいただいていまして、地デジの日本方式を導入したブラジルでIPDCを拡げるビジネスチャンスが見えてきたという話題も効いていたんだと思います。
 
 ぼくの冒頭あいさつ趣旨を書いておきます。通信放送融合の現状をIPDCという技術から切り取ってみるとこんな感じ、ということで。
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 IPDCのメリットは、通信では難しい一斉同報性です。数多くの人に一度にデータや制御コマンドを送れ、耐災害性にも優れ、コンテンツデリバリーのネットワークとしても有望。既存の地デジ設備にそのまま乗っかることができるのが強み。
 できることはいろいろあります。mmbiで実用化されているファイル配信(音楽、電子書籍など)、その応用としてサイネージへの動画配信。M2Mと呼ばれる機器への制御情報の配信、一斉同報性を活かした、防災への活用など。もちろん「セカンドスクリーン」にも有望です。
 セカンドスクリーンは世界的にも騒がれています。でも、地デジ化は完了したが、何が変わったか?映像がきれいになった、周波数の利用効率が高まった、それだけでは、新しいビジネスにはなりません。通信と放送の間を「つなぐ」ものがなかったから。
 画面を汚すことなく、つまり既存の広告モデルを壊すことなく、通信と放送をつなぐことが放送側から求められていたわけです。そのためには、放送のタイムラインにあわせて、セカンドデバイス上でのコンテンツの制御をいかに実現するかが重要なカギを握ります。
 映像コンテンツの過半をテレビ業界が押さえている日本では、放送主導でのサービススタイルとビジネスモデルを設計できるかどうかがスマートテレビの行方を左右します。
 現在、音声ウォータマーク、フィンガープリントなど様々な技術が使われています。でも、遅延のない精緻で本格的な同期制御のためには、IPDCが重要でしょう。日本型のセカンドスクリーンには、IPDCが欠かせないと考えています。
 なお、この日本型のスマートテレビの実現のカギはIPDCを受信できる受像機の普及にあります。デバイスです。もちろん、地デジ化したばかりで、テレビ本体の買い替え需要を期待するのは無理があります。この打開策として、地デジのテレビの横に、数千円程度のIPDC受信ルータを試作する試みを行っています。
 メーカーがそうした受信機を積極的に開発していくマーケット形成のために、ISDB-Tを採用する国々が連携することは重要な課題です。そういったマーケット形成は、日本だけで実現できることではありません。
 ISDB-Tを採用するブラジルをはじめとする南米といかに連携できるか。いきなり国際対応が重要課題になっています。ブラジル サンパウロ大学のズッフォ教授に参加いただいているが、これをキッカケに、国際展開に乗り出したいと思います。

2013年1月14日月曜日

昭和陸軍の軌跡


■昭和陸軍の軌跡

 川田稔 著「昭和陸軍の軌跡」。
 満州事変から対米開戦に至る永田鉄山、石原莞爾、武藤章、田中新一の構想の分析。
 解読不能な部分もあるが未知だった事項も多く刺激的なので、自分なりに整理メモを作ってみました。
 ターニングポイントは4つあると読みます。

○統制派vs 皇道派
 第一次大戦で戦争が国家総力戦となったとの認識により、統制派の永田は国防資源を得るため外国との経済・技術交流を必須と考えていたのに対し、皇道派(主流派)の小畑らは対ソ好戦。
 →即ち、派閥争いは元は政策対立だった。

 天皇機関説に対抗する国体明徴運動は皇道派が統制派を失脚させる試みだが失敗。他方、皇道派は北一輝らの国家社会主義を嫌悪していたが、青年将校グループと手を組むため飲んだ。
 →あれは陸軍内の抗争問題だったのか。

 永田暗殺、2.26事件を経てこの対立は統制派の制圧で終了。
 →組織内対立がテロで解決されていくリアリティは現在は共有できない。
  これが陸軍のターニングポイント1。

○石原vs武藤・田中
 36年当時、石原は対ソへの危機意識からくる米英など国際関係に配慮、中国に対しても日本自ら侵略的な帝国主義を放棄すべしとの立場。
 →満州事変を起こしながら不拡大とする頭脳的方針は重厚な組織では浸透しにくいことを制御できなかったことが限界。

 事態不拡大派の石原作戦部長と拡大派の武藤作戦課長・田中軍事課長が対立。その後、石原は部下との抗争に敗北、陸軍中央を去る。
 →石原の敗退が陸軍のターニングポイント2

 両陣営の対立が廬溝橋事件を発生させるが、その1月前のスターリン大粛正でソ連軍大打撃の情報が入ったことが背景にある。
 →革命後のソ連情勢をどう読むか。中国、米国と並ぶ三大判断材料。

○武藤vs田中
 三国同盟と日ソ中立条約はセットであり、条約締結直後にアメリカから届いた中国からの撤兵案をみて武藤は日本は救われたと満足した。
 →A級で絞首刑となる武藤がそれほど対米戦を回避したかったことを知った。

 三国同盟の維持か対米英親善への国策転換か、国家命運の基本問題に陸軍も悩んだ。これは独ソ戦をどう展望するかで考えが分かれた。
 武藤は独ソ戦は長期持久戦になるとみたのに対し、田中は対ソ戦の好機、南部仏印進駐もよしと考えていた。
 →石原失脚後の武藤-田中が政策対立、武藤の後退がターニングポイント3

 田中の好戦論に対し武藤は、北方の対ソ戦と南方の対米英戦の同時両面戦争を危惧、これは海軍とも同じ認識だった。
 南部仏印進駐によるアメリカの対日石油禁輸により、田中は北方武力行使を断念する一方、武藤は日米交渉に全力を投入することになる。
 ワイマール共和国の3年をドイツで過ごした武藤はナチスに距離を取り、ナチスが政権を掌握したころ1年半ドイツに滞在した田中はナチスに傾斜。
 →この両者のドイツ派遣は日本史上とても重大な人事ではないか。

 武藤は長期国家総力戦のためには東条ではない国民的基礎をもつ内閣が必要とし、それがため南方に左遷。覇を握った田中も作戦を巡り東条首相に暴言を吐き南方に左遷。
 →結局、不戦・好戦とも失脚で制御不能に。これがターニングポイント4。

 武藤・田中左遷後、有力な幕僚は現れず、東条は場当たり対処で臨むが、447月、サイパン島陥落後に総辞職。
 →戦死者の大部分はこのサイパン陥落後の犠牲者である。




 さて。
 陸軍の所業への批判はあまたあるが、ポジティブに読み解くとすれば・・・2点か。
 中国、ソ連、米英、仏印、独伊。命がけで国際情勢を読み、政策立案していた。現在のような対米中韓との場当たり対応はあり得ない。
 政策発動・変更を巡っては厳格な手続があった。会議での決定・命令であったり、殺人であったり人事であったり。原発停止・再稼働のような「依頼・要請」はあり得ない。


2013年1月10日木曜日

IPDC @InterBEE2012

■IPDC @InterBEE2012

放送展InterBEE2012@幕張。
ぼくが会長を務めるIPDCフォーラムとしてブースを出しているので今回は出展者として参加しました。
地デジ網の整備が完成したとはいえ、デジタルならではの放送サービスは未だ姿が定まりません。
そうした中、スマートテレビが世界的なブームになっていますが、日本型のスマートテレビはどうやらダブルスクリーン、マルチスクリーンの方向に進みそうな気配。
 
放送波にIPという通信技術を乗せるIPDCは、放送局主導でマルチスクリーンをコントロールする技術で、ここに来てその具体像が明らかになってきました。

今回は特に大阪の放送局を軸に発足した「マルチスクリーン型放送研究会」(マル研)の成果を展示しています。12テレビ局、15番組が参加しました。このかたがたが中心です。

よみうりテレビの「宇宙兄弟」。
550Kpbs程度のIPDCでアニメとマンガをhtmlでタブレットに送ります。






ABC「アタック25」。
自分の端末で1色を選び、
回答者に成り代わり自分のオセロを組み立てます。
「なぜカドを取らない」とつぶやかずに済むように。



MBS「災害ニュース」。
住む場所によってサブ端末への表示が違う。
IPDC(放送)表示のワクの中にtwitter(通信)表示を混在させています。





関テレ「キャラぱら! ちん電くん」。
今いる場所の地下鉄ルートを表示。







TV大阪「やすとものどこいこ!」。
大阪の町をブラブラする関西らしい番組。
商品情報をIPDCでタブレットに表示、
そこからecサイトに通信で飛びます。
広告ビジネス以外のモデルが構築できるか。




大阪以外にも広がってます。
広島ホームテレビ「ユニキャラプロジェクト」。
ウェザーニュースとの連動です。




TV静岡「くさデカ」。
豚丼のレシピをIPDCで。







テレビ西日本「ピチ高野球部」。








東京キー局も。
TBScat chat 英会話たいそう」。
SKITがタブレットに表示されます。






フジテレビのメディアトリガー。
放送に重畳した音響IDをタブレットが検知するもの。
これもマルチ放送局対応になりました。






電通が6本、博報堂が2本のCMを作ってます。
ニッセンのCM
ボタンを押すとecサイトにby電通。






大和ハウスのCM
物件情報がタブレットに by電通。







博報堂の味覚党CM






大阪局合同で作った女子アナを触るコンテンツ「サワリや」。
このTVIPDC受信機と室内送信機を内蔵した試作品。
ハードウェアも来てますよ!

2013年1月9日水曜日

号外 デジタル十大ニュース2012ノミネート!

■号外 デジタル十大ニュース2012ノミネート!

デジタル十大ニュース2012。ノミネートが出てまいりました。
以下の16件。デジタルサイネージコンソーシアム、デジタル教科書・教材協議会の会員各社からエントリーいただき、ぼくの研究室で整理したものです。
どうでしょう?

・LINE8000万人、無料通話ソーシャルサービス戦国時代へ 
・違法ダウンロード刑罰化
・コンプガチャ問題
・どないしてん日本家電産業
・遠隔操作ウィルスで警察手玉に取られる
・炎上大国ニッポン:市長も社長も教育長も
・電子書籍デバイス出そろう
・ビッグデータは宝の山?
・ソーシャルなデモ多発:原発やら反日やら
・スマートテレビ始動:放送、通信、メーカーの本格対応
・ソフトバンク、スプリント買収
・Facebook株式公開…。
・アノニマス大暴れ!ACTAとか霞ヶ浦とか
・やっとこさオリンピックがネットで見られた。
・オウム真理教逃亡犯続々お縄:監視カメラとネットカフェ
・4Kは思ってるより早く来る

これをネット投票にかけます。
ここで投票ください。
http://bit.ly/ZAKV9I

結果は1月23日、デジタル新年会で発表します。
デジタル新年会もぜひお越しください。
http://digital-signage.jp/event/

ちなみに2011の結果は以下のとおりでした。
1位 スマートフォン急激に普及 上半期出荷台数は1000万台超
2位 スティーブジョブズ氏死去
3位 復旧作業や安否確認にソーシャルサービスが活躍
4位 通信・放送融合法制が施行
5位 震災後 TVのネット配信が一時実現
6位 facebookの加入者 日本で1000万人突破
7位 タブレット端末 各メーカーから出揃う
8位   地デジ、被災三県除き整備完了
9位 DeNA野球参入に楽天が反対
10位 サイバー攻撃相次ぐ

マルチスクリーン(スマホ、タブレット)、融合ネットワーク(融合法制、地デジ)、ソーシャルサービス(ソーシャル、facebook)のメディア3分野構造変化が見事に表れたラインアップでした。
発表の際にお答えした、2012年には何が起きるかの予測、
「GREEが巨人を買収しかしDeNAが反対!」
「ジョブス、実は生きていた!」
は、実現しませんでした。
http://ichiyanakamura.blogspot.in/2012/01/2011_14.html

2013年1月7日月曜日

情報社会と共同規制

情報社会と共同規制
 若い研究者ながら長年の仲間でもある生貝直人さんの「情報社会と共同規制」。
 自主規制と公的関与という情報政策の主流となった枠組を概説する好著。コンテンツ規制、青少年保護、プライバシー、著作権などホットイシューに関する企業・業界団体の自主規制と政府の介入による公私の共同規制、その米欧日の比較です。

 通信放送融合法制、安心ネット協、EMA、知財本部、教育情報化、サイネージなどぼくが関わるプロジェクトの多くが共同規制案件です。ぼくが政府から民間に転じた時期、メディア政策が提供政策から利用政策にシフトする中で、政策手法も民寄りに変わってきました。 
 ぼくの基本スタンスは自主規制>共同規制>直接規制。できるだけ政府の規制がなくて済むよう、つまり非共同規制で行けるよう民間の活動を整えようとし、次善の策として共同規制を是認してきました。直接規制に異を唱えることもしばしばありました。それは理論的支柱に基づいてというより、感覚的に対応してきたことが多かったのですが、本書はその理論を整理してくれています。

 個別に読みます。
3章:通信放送の融合とコンテンツ規制
 日本の融合法制論議は欧州の制度を参考にしたが、結局導入を見送りました。日本は新しい法スキームに移行して話題にならなくなりましたが、欧州制度も進化しており、それがアップデイトされていて参考になります。
 欧州スキームの日本導入見送りは、ネットのコンテンツ規制強化を避ける判断であり、ぼくは今も正解だったと考えています。そもそも日本の放送コンテンツ規制は、各社に審議機関を置かせるなど従来から放送局の自主規制を法が求める共同規制であり、民放連やBPOも重畳した仕組みとなっています。放送番組に対し当局が直接規制を加えるのが国際スタンダードな中にあって、一つの世界的なモデルと言えるでしょう。

4章:モバイルコンテンツの青少年有害情報対策
 青少年ネット法により「米国型の自主規制から、政府による介入度合いの比較的大きい英国型の共同規制に移行」との指摘。そのとおりです。
 ぼくが安心ネット協、EMAI-ROIの発足に関わったのは、共同規制ではなく政府の直接規制に針が振れるのを危惧したためです。法案制定に至った国会でも参考人として出席し、法案に慎重意見を述べたのも、国の過度な介入を恐れたためです。結果、現状、有効な共同規制で推移しています。
 昨年、ネット炎上についてニューメディアリスク協会を立ち上げたのも、事態を放置すると政府介入の怖れあったためです。こちらは現状、共同規制でなく自主規制に留まっています。

5章:行動ターゲティング広告のプライバシー保護
 行動ターゲティング広告のような「流動的領域への対応においては・・・消費者の主観的な、いわば安心の担保が重要な政策課題となる」。これが厄介です。
 消費者の「安心」を動機とする政策は、規制の加減に基準がなく、集団訴訟や市民団体活動の弱い日本は「公」の発動に依存しがちです。このため「安心」を巡る規制は、個人情報保護、青少年ネット規制、レバ刺しなど食品規制等予防的に強い事前規制へと流れがちなわけです。
 政府による過度の規制を招かないためには、民間による十分に「早く強い」自主的な措置が必要です。消費者庁のコンプガチャ禁止は、業界対応が遅れたせいという面もあると思います。

7章:SNS上での青少年保護とプライバシー問題
 フェイスブックやマイスペースなど20社が対応の原則に署名し、各社が自主宣言した上で、大学など第三者が事後評価する欧州のモデルが紹介されています。
 なるほど、そういう手がありますか。民間が個別にアクションを起こす。大学を評論に止まらないプレイヤーとして参加させる。大いに参考になりますね。

9章:共同規制方法論の確立に向けて
 民間には自主規制のインセンティブはありません。政府がインセンティブを創出するには、直接規制するぞというプレッシャーを与えることという指摘。青少年ネット法の「見直し規定」がその例でしょう。
 コンプガチャ禁止通達は直接規制を発動した例ですが、「通達」という恣意的で不透明な手段であるため、引き続き強化されかねず、これが民間自主規制へのプレッシャーともなっているという皮肉。肯定的に解することもできます。
 ネット炎上に関しては、ニューメディアリスク協会を立ち上げ、国会議員や官庁にオブザーバとして活動をウォッチしてもらっているのですが、この手法は、自主規制でありながら未然に直接介入を防ぐ緩い共同規制の例と言えるのではないでしょうか。
 今後の課題として、国際整合が挙げられています。どの案件についてもボーダレスの対応は重要にして未解決の問題。がんばりましょう。

 生貝さんはじめ研究者のかたがたにはお願いもあります。
 まず、共同規制の先輩格として「標準化」があります。技術に関する強制基準と自主基準、そのはざまでの共同運用。これも同様のアプローチで分析してもらえないか。
 また、規制手法を正当化する論拠として、共同規制に関する経済学的な論考も待ちたい。どういう条件の場合どのような共同規制が社会厚生を最大化するか。
 そして今、最も注目されるのが「ソーシャルゲーム」の健全化対応。消費者庁、総務省、経産省及び与野党と連絡しつつ業界団体を設立しているのですが、コンプガチャに端を発した規制問題にどう収まりをつけるのかが問われています。
 ソーシャルゲームの共同規制をどう設計すべきか。法制度との整合、業界の取組の要諦、官庁との距離感など、ぜひご意見をお聞きしたい。ご教授いただければ幸いです。