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2026年7月27日月曜日

総務省のコンテンツアクションプラン

■ 総務省のコンテンツアクションプラン


「実写コンテンツ展開力強化官民協議会」@総務省。

林芳正総務大臣出席のもと総会が開かれ、アクションプランがとりまとめられました。

NHK・民放各社、番組制作、通信、配信、広告、新聞、銀行、商社などが参加。

会長は内山隆青学大教授。ぼくは会長代理を務めます。

 

ぼくが現役官僚だった80年代中盤のニューメディア、90年代初頭のマルチメディアのころは、こういう座組で政策プランを作っていました。

しかし通信・放送融合が取り沙汰されるようになった90年代後半からあと、放送業界はムラに閉じこもり、結果、地盤沈下となります。

今回は通信を含む広範囲のステイクホルダーの集まりです。ぼくも実に久しぶりに放送の会議に招集がかかった次第です。厄介なロートルの先輩を迎えるのは、行政サイドにも危機感があるからかもしれません。

 

とりまとめられたアクションプランは、国内の広告から海外のネットへとモデルの転換を促し、2033年には海外の実写売上2500億円・海外売上比20%の目標を立てます。現在の20倍以上というすさまじさです。このため、NHK受信料を活用して基金を設置して人材育成に当てようとしています。

施策としては、

・海外・配信を目指すコンテンツの支援と配信PFの強化

・世界に通用する実写コンテンツを製作する人材の育成

・配信による地域コンテンツの展開

を柱にしています。

https://www.soumu.go.jp/main_content/001069365.pdf

 

業界を支援しましょうがんばろう。それ自体は平和なシャンシャンです。

やりゃあいい。

しかしぼくは、この会議に至る背景・状況に危機感を抱いていました。

会議もシャンシャンであることに危機感を抱きました。まだそんなかんじなのか?

そこでぼくのコメントです。業界の経営層と、総務大臣とに向けて。

 

政府はコンテンツを成長産業から基幹産業へと呼び方を変えて、戦略17分野に位置づけた。そして海外市場20兆円という目標を立てた。しかしその9割はゲームとアニメであって、実写の放送は1%余りに過ぎないという存在感に危機感を抱く。

 

報告に「配信コンテンツは年15%成長で放送は1.8%の減少」とある。配信と放送を二項対立でみてきた結果がそうなのであって、その両者を合わせた公倍数、成長市場の中で戦略を描くべき。「海外売上比率20%を目指す」という方向性も、現在の0.8%からみれば大変だが、ゲーム・アニメは既に60%である。

その認識がまずは必要だ。

 

「通信・放送融合」が旧郵政省の審議会で唱えられたのは35年前であり、コンテンツ事業を国内の広告市場から海外のネット市場に転換する必要性は政府・知財本部では15年前に唱えられていた。

内閣府・知財本部や経産省でもいまコンテンツ政策の報告がとりまとめられている。そこでは、IP360と称して、マンガ・アニメ・ゲーム・音楽、マーチャンダイジングと実写を360度回す戦略が描かれている。

そのコンテンツ産業やデジタル産業のバリューチェーンに放送局を今一度組み込む。そのための構造改革を促すことがこのアクションプランの目指すことだと思う。

 

通常こうした政策レポートは、名宛人が政府であり、その行動を促すことが主目的だが、このアクションプランは、民間の、特に放送事業者の経営層に認識を問うものになっている。そしてこれを経営戦略として読んでもらうだけでなく、いかに具体的なアクションに結びつけるかが大切だ。

 

この場には、放送関係者だけでなく、通信、コンテンツ、金融・商社などバリューチェーンのプレイヤーが揃っているので、そのみなさんとともに今後の事業を構築していくことが重要。民間の努力が第一だが、総務省はじめ政府の後押しもカギを握る。ご指導ご協力をお願いする。




2026年6月1日月曜日

スタンフォード大学で日本のポップ。

スタンフォード大学で日本のポップ。


スタンフォード大学「日本のグローバルコンテンツ産業」。

APARC(アジア太平洋研究センター)主催でシンポを開催しました。

アニプレックス小髙洋介さん、作曲家椎名豪さん、ミリアゴン村田千恵子さん。

小高さんは鬼滅の担当。椎名さんは鬼滅の作曲家。村田さんは国宝のプロデューサ。

鬼滅と国宝というアニメと実写の記録破り2作品からお越しいただいた3名です。

デジタル十大ニュース2025の2位を獲った2作品でもあります。

いずれもソニーグループによるものです。

椎名さんは竈門禰豆子のうたをライブ演奏してくれました。



ぼくがかつて身を置いたスタンフォード日本センターはAPARCの機関で、古巣に戻っての登壇でした。

そこにいたころ、GNPP:国民総ポップパワーというプロジェクトを立ち上げました。クールジャパンという言葉がアメリカから発せられた時分で、日本政府が知財本部を創設してコンテンツ政策に取り組み始めた頃です。

20年以上が過ぎ、アニメ・ゲームに加え実写映画も音楽も海外展開が盛んになって、政府は海外売上6兆円を20兆円に拡大する作戦に出ています。

海賊版、人材育成、中国そしてAIと課題は山積しているが韓国と異なり省庁は縦割りで国ばかりも頼れない。そこで改めて民間で立ち上げたのがPPP:ポップパワープロジェクト。そう、これはGNPPの復刻でもあるのです。



てなプレゼンをしつつ、御三方に伺いました。

・日本コンテンツ人気の背景は?

・プラットフォームの功罪は?

・ドラマや音楽の韓国の活躍をどうみる?

・ソニーの強みは何か?

・食、ファッションなどマーチャンダイジングの可能性は?

村田さん「パラサイト、愛の不時着、イカゲーム。韓国が先に地ならしをしてくれたので、日本の実写が受け入れられている。」日韓が競いつつ一体のアジアとして世界に出る。音楽もしかりですね。

椎名さん「アメリカ人もカツ丼をちゃんと食うようになった。以前は上と下を分けて食べていたが一体として食べられるようになった。」別物だった洋と和を、和洋折衷して受け止めるほどに海外が育ったってことなのでしょう。



続いて、京都の老舗4家が語りました。

140年の任天堂山内家、山内万丈さん、150年茶筒の開化堂八木隆裕さん、300年西陣の細尾真孝さん、500年とらやの黒川光晴さん。

いずれも存じ上げる若い挑戦者。細尾さんは12代目。黒川さんは18代目。重い伝統を背負いながらイノベーションに取り組みます。しかも目線は世界に向いている。

スタンフォードも150年の老舗ですが、そのビジネススクールで教えるのは、成長・競争・winner takes allで企業寿命15年。でもこれら京都企業には当てはまらない。八木さんは「小さく細く長く続けることの総体積」の意味を語りました。これは彼らだけが世界に発することのできるサステナビリティのブランド価値。

ぼくはこれら京都の工芸、職人、表現、アートの歴史と蓄積がいまポップカルチャーを花開かせている地続きの土台と考え、一体のものとして語りたい。

そういえば細尾さんとは12年前に京都で開いたクールジャパン会議でご一緒していたのでした。

「地方版クールジャパン推進会議@京都」

https://ichiyanakamura.blogspot.com/2014/04/blog-post_21.html

 

このポップ+伝統に目をつけて一体で開催するスタンフォード大学はセンスがあります。毎年開いてもらいたいな。


https://aparc.fsi.stanford.edu/events/japans-global-content-industries-innovations-and-reinventions-film-animation-and-traditional?fbclid=IwY2xjawQEhylleHRuA2FlbQIxMQBzcnRjBmFwcF9pZBAyMjIwMzkxNzg4MjAwODkyAAEe9Xek0DMXzAZj0tNiErBEaFbS-GubZquT4raH0Rj50VIgOzatsua1F-tZH9g_aem_bjSQFOvSU48JjLOmXqEZaQ

 

https://aparc.fsi.stanford.edu/news/japans-global-content-industries-thrive-expanding-creative-ecosystem

2026年5月25日月曜日

PPP:エンターテインメント・コンテンツ産業の未来

■PPP:エンターテインメント・コンテンツ産業の未来


PPPシンポジウム「エンターテインメント・コンテンツ産業の未来を考える」。

PPP(PopPowerProject)が発した政策提言「コンテンツ産業戦略2026」をベースに、関係省庁と経団連の代表とともに議論しました。満員御礼、熱気ある討論になりました。



登壇は内閣府知財事務局福田和樹参事官、経産省梶直弘文化創造産業課長、文化庁長谷浩之著作権課長、総務省吉田弘毅情報通信作品振興課長、経団連岩村有広常務理事。

コンテンツ4省庁の担当課長が勢揃いするのは初めてじゃない?

しかもそれぞれ役割を補完し合っていいかんじ。

バッチバチじゃなく、いいかんじになったのはいつからだろう。

そういえば2年前はこの4ポスト、全員女性だったんですよね、そのころから柔らかくなったのかな。

ただ今は政府がコンテンツのプライオリティを高めて戦略17分野に据え、政策展開も熱くなっています。民間にとってもチャンス。



PPPの提言「コンテンツ産業戦略2026」は7項目。

経団連による提言も参考にしつつ、PPPのメンバーや連携企業ら有志がまとめたもので、登壇した省庁は受け取ってくださる側。

予算措置1000億円のように政府(除く財務省)を後押しするものもあれば、「文化省」設立のようにチョット待った!とされるものもあります。

ぼくは知財本部、経産省、総務省の会議に参加していて、文化庁はお役御免になったけれど、なので政府の取組みは知っていますが、一堂に論点を叩いたことはないので、貴重な機会でした。

https://poppowerproject.com/contentindustrystrategy2026/



来場の業界人が一番関心を寄せる支援措置。目指せ予算1000億円は夢物語ではなくなりました。が、この日のポイントは、税制措置の活用(経産省)、レコード演奏・伝達権の創設(文化庁)、NHK資金の活用(総務省)という多彩な政策手段によるアプローチ。民間もこれら総合的な支援策を使いこなせよ、というメッセージでもありました。ちょうどこの日、文化庁の審議会でレコード演奏・伝達権創設が固まったとの報告もあり、はずみがつきました。



人材育成は長年のテーマです。文化庁はじめ施策が厚くなっています。総務省も新会議で人材育成をテーマにしています。ただ、いつも課題とされながら打ち手に乏しかったテーマでもあります。そこでPPPは民間の立場でマネジメント教育のため米Thunderbird校の誘致に動いています。これに関し、経産省の梶さんは、コンテンツの仕事とプロジェクトを作り、その中で人を育てる方向性を強調しました。リアリティがあります。



生成AIとコンテンツの関係値は揺れています。積極活用で競争力を育む派と、アーティストやユーザの忌避感を重んじて遠ざける派とに分断されている感もあります。だが活用して優位に立つスタンスで壇上は一致しました。ただ侵害行為は急拡大する。海賊版対策と同様の総合的な措置が必要になるとの指摘もありました。同意します。



韓国コンテンツ振興院KOCCAのような司令塔がほしいよ。PPPは「文化省」としました。経団連のコンテンツ庁提言をなぞったものです。霞が関は各省庁の利害が交錯し、この話に触れにくい。ここで経団連岩村さんが司令塔「機能」が大事だと強調されました。なるほど、省庁の形よりも、いかに実質のパワフルな機能が持てるかですね。ぼくは省庁再編が役人最後の仕事で、次の再編が個人的な重要事項なのですが、形よりも機能というのはうなづける響きでした。

客席にKOCCA前日本代表の黄仙惠さんがいました。どう思う?「日本はこれら関係省庁の横連携が重要」との指摘。JOCCAを作るより「機能」ってことですね。でもこの4省庁の連携はうまく「機能」してるの? 総務省吉田さん「このメンバーは週3で会っていてうまいことやってる」。ちかごろわたしたちはいいかんじ。そうか。じゃあこのステージが事実上、JOCCAのショウケースってことですな。



コンテンツ、メディア、通信、メーカ、金融、商社、アパレル、自治体などなど多彩な関係者と登壇者によるシンポ後の懇親会がもっと大事な本番でした。このネットワークを活かして日本のコンテンツが少しでも元気になることを祈るとともに、さっそく次の機会を設計します。多謝。

2026年5月18日月曜日

PPP コンテンツ産業戦略2026

■PPP コンテンツ産業戦略2026



PPP:Pop Power Projectが政策提言「コンテンツ産業戦略2026」を発出しました。


1.支援措置の拡充、2.人材育成の拡張、3.スタートアップの支援、4.AI活用の促進、5.海外展開の戦略的推進、6.海賊版対策の強化、7.司令塔機能の実装の7項目。

シャープにまとめたと思います。内閣府知財本部、経産省、文科省、総務省などなど関係方面に働きかけます。ご一読のほどを。

https://poppowerproject.com/contentindustrystrategy2026/

 

日本発のコンテンツは極めて高い創造性と独自性を持ち、世界から高い評価を受けている。そして、これを生み出す産業には潜在的な競争力がある。一方で、支援措置、人材育成、起業支援、AI活用、海賊版などの課題に対し政策・対応が分散し、ジャンルを横断した産業全体としての戦略性が十分に発揮されていない。
 本提言は、政府および民間が連動し、日本のコンテンツ産業を成長する基幹産業として再設計することを目的とする。


1. 支援措置の拡充

 日本のコンテンツに対する公的支援を国際的な水準に引き上げ、グローバル市場を前提としたIP展開を加速させることで、海外市場を3倍増の20兆円に拡大する政府目標を早期達成する。
 関連予算の1,000億円規模への拡充、制作促進税制等による支援体系を構築する。
 特に、海外展開・ローカライズ、地域・拠点整備、DX・AI活用、メタデータ・アーカイブ整備、人材育成・起業支援等を、制作現場のスピード感に対応した簡素な手続で横断的に支援する。
 また、海外市場データの把握を通じた戦略立案の高度化や、制作・発信・交流を担う象徴的拠点の整備を支援措置の中に位置づける。レコード演奏・伝達権を創設するべく、著作権法の改正を行う。


2. 人材育成の拡張

 コンテンツ制作人材を育成する教育を拡充するとともに、産学連携を通じて、国際的なマネジメント・プロデュース人材を育成するビジネススクールなど高度教育プログラムを整備する。
 あわせて、コンテンツに関する入門的な認定制度や世界市場を見据えたポップカルチャー検定を創設し、権利・契約等の基礎知識を含む知識の体系化と国際的理解の促進を図る。
 さらに、労働環境改善の観点も踏まえ、人材が持続的に育成・定着する産業基盤の形成を目指す。


3. スタートアップの支援

 成功までに時間を要し、成果の不確実性が高いなど、他の産業とは評価指標も異なるコンテンツ分野に適した起業支援策が求められる。
 エンタメ特化型の評価・マッチング機能を整備し、専門家による選定や表彰を通じて資金と注目が循環する仕組みを構築する。制作・実証・発信を担う拠点を整備し、海外展開を視野に入れた短期的成果に依存しない支援モデルを確立する。


4. AI活用の促進

 生成AIを手なづけ制作の競争力を高める攻めの対策と、不正利用や権利侵害から身を守る措置を同時に遂行し、イノベーションと権利保護の両立を図る。
 AIの導入を支援するとともに、集団的にAI事業者との対話・交渉や法的対応を行う体制を整える。AIによる権利侵害の自動検出・摘発など技術の開発・実装を支援する。ユーザーのAI利用を円滑化するガイドラインやリテラシー向上施策も整える。


5. 海外展開の戦略的推進

 文化庁・外務省による文化交流事業をコンテンツ産業政策の文脈に再定義し、文化交流と産業戦略を連動させて、中国を含む諸外国との関係強化を図る。
 官民による文化交流や国際イベントへの戦略的展開を継続的に実施・支援する。大臣級会合やJETROの枠組みと連動させ、新興国・グローバルサウスも含めた国際イベントや表彰制度を活用する。


6. 海賊版対策の強化

 政府の海賊版総合対策を強化する。
 特に、CODAの権能を法的に明確化し、分野別の実態を踏まえた機動的で強力な執行体制を整える。政府は海外当局との連携を強化し、迅速な削除・摘発・処分を可能にする実務体制を整備する。


7. 司令塔機能の実装

 「文化省」設立を目指す。コンテンツ文化産業政策を統括する司令塔機能を整備する。

 並行して、民間側に業界横断の中核的連携組織を整備し、ジャンル横断で官民が連動して政策立案・実行・評価を行う体制を構築する。その一環として、コンテンツ振興法の強化を含む制度基盤の見直しを検討し、継続的な政策実行を担保する。 

2026年5月4日月曜日

つげ義春さま、ありがとうございました。

■つげ義春さま、ありがとうございました。



NHKに「私の1冊日本の100冊」という番組があった。2008年。ぼくが4人目として登場した。つげ義春「紅い花」を選んだ。安藤忠雄、出井伸之、三枝成彰、丹羽宇一郎、坂本龍一、町田康、吉永小百合さんら他の99人でマンガを選んだ人はいない。西原理恵子さん江川達也さんもマンガではない。慶應義塾大学教授(当時)としてマンガでよいのか、と慶應で問題視された。だが断固、紅い花であった。

 


作品集である。76年4月、NHK、佐々木昭一郎監督「紅い花」。「ねじ式」「沼」「古本と少女」などのオムニバスドラマだ。高1だった。沁みた。翌日、西友の本屋で小学館の単行本2冊を買った。むさぼり読んだ。「李さん一家」「もっきりやの少女」「ほんやら堂のべんさん」「海辺の叙景」。孤独、叙情、貧乏、耽美。うつむいて無口でしみったれたぼくは、こういう世界があることを知り、ひたっていてもいいのかもしれない、と救われた。

 


さえない2年が経った。高3の夏。河原町の京都書院で、黒いハードカバーのマンガ誌「夜行7」を見かけた。「コマツ岬の生活」があった。隣の喫茶店に持ち込み、「ひゃッ ちめ たい」のラストシーンをわかろうとむさぼり読んだ。つげ忠男、菅野修、古川益三(後のまんだらけ創業者)、いしい被災地(後のいしいひさいち)らの不思議な作品群とともにむさぼり読んだ。救われるどころか、黒い沼に引きずりこまれる予感がした。

 


授業に出なくてもよい大学に入って自由を得たぼくは、ガロのバックナンバーを全て買い込み、60年代の静かで美しい詩的な甘味を後追いでむさぼった。と同時に、夜行7で引っかかった、夢うつつに現実をデフォルメする新領域にはまった。79年の入学早々、5月には夜行8に怪作「夜のふくらみ」が掲載され、同月「カスタムコミック」が創刊されて、「必殺するめ固め」「ヨシボーの犯罪」「窓の手」という奇跡の連作を浴びることになる。

 


静と動。遁世と狂気。巨人がデュアルの表現領域を開拓した。その作品群と同時代を征く。発表のたび、幸せを感じた。石子順造さんらの「漫画主義」を読み考えた。折しも文化は爆発期だった。翌年、漫才ブームが発生した。3年後、高校の近所にあった任天堂がファミコンを発明した。ちょうど音楽はパンクで、できあがった表現がひっくり返されていた。マンガで眼を開かされたぼくは、自分が関われる表現として、ロックに参加・実践した。

 


15年ほど待って90年代なかばにネットが登場し、表現が刷新され新文化が創られた。20年ほど経ってAIが進化し、いま新表現が創られつつある。今の世代がうらやましい。だがぼくの世代もそれら感動に似た横断的な文化の爆発期にいた。もう50年である。この巨人の開拓に感化され、人生の大半を過ごした。果報者だ。現世代がネットとAIに抱くであろうのと同級の感謝をつげさんに捧げる。

 


圧倒的に緻密で正確な描写と、ゆがんだデフォルメ表現とが描き分けられる。ピカソの画力である。さらに比類のない着想、一筋縄なもののないストーリー、ミニマムで独特のセリフ回し、読者に委ねられた時間感覚、それら全てを覆う世界観は、マンガでしか表せない。映画やアニメでは表現し得ないから、マンガなのだ。しかもそれは孤高のものではなく、後世のマンガ家に、いや全表現ジャンルに、強い影響を与えた。

 


手塚治虫が動画の二次元化、ハリウッド表現化を図り、マンガを大衆化した。同時期につげさんがマンガを大人の読む文化に高めた。マンガが世界的に評価されるのは、この2軸ゆえだ。つげさんはもっと評価されるべし。と思っていたが、没後ひっきりなしにSNSを流れる追悼を読むと、ハイエンドの表現者もぼくのような読者も、どっぷり尊敬してきたことが共有できる。へたに表彰するより、このみんなの声の存在が、正しい評価であろう。

 


つげ義春さんを悼むぼくの言葉は、まだまだ足りない。逝去の報を受け、ショックで筆を走らせているにすぎない。少し時間をやり過ごし、深呼吸して、またつづろうと思う。まずは、おつかれさまでした。ありがとうございました。おやすみください。