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2019年2月28日木曜日

フランスのインキュベーション、本気です。

■フランスのインキュベーション、本気です。

世界最大のインキュベーション施設、Station F。
2017年6月、就任間もないマクロン大統領を迎えスタートして1年余。
1年間で11,271件の応募があり、そのうち9%が認められて、スタートアップ1,034チーム、合計4,882人が入居しています。

エッフェル塔を横たえた規模、幅58メートル、長さ310メートル。敷地面積34000㎡。
鉄道省が保有していたかつての貨物駅を大改装したカルチェです。
サンラザール駅やリヨン駅の風情を残します。

ミッテラン大統領が新国立図書館を遺した、そのすぐそば、パリ13区。
高級とは言えない地区ですが、ヨーロッパ最大の中華街があり、再開発が進みます。
その一画をインターネットと電話の「free」の創始者、グザヴィエ・ニール氏が私財200億円をかけて開発。

かつて駅だったオルセー美術館と同様、フランスは古きを残し現代に変えます。
伊勢神宮が20年おきに壊して作り続けてきた1200年の日本とは違うなぁ。
でも、ニール氏がフロアに持ち込むアートは「悪趣味」との評判。
フランス人はそーゆーの厳しいから。
(村上隆さんの3D自画像)

入居社の多くはIT系。B2BのSaaS、AI、 コンシューマアプリ、Eコマースなどです。
インキュベーター、VCとしては、Facebook、MicrosoftといったアメリカのIT巨人、フランスのゲームUBISOFT、TV局TF1、ビジネススクールのINSEAD。
一方、BNPパリバ、LVMH、ロレアルなどIT以外の大企業も参加しています。

製品のプロトタイプを作成する「TECH LAB」も用意され、3Dプリンタ、レーザー切断機などを利用できます。
ただ、これらの利用は活発ではなく、入居者はインキュベーターとスタートアッパーたちの交流、コミュニティ機能に重きを置いている模様です。
入居費用は月200ユーロ。

このため数多くの会議室、イベントスペース、カフェなどを併設しています。
取り分け、敷地全体の1/3を使い、ヨーロッパ最大のオープンなレストランを用意したのが好評。
このあたり、わかってますよね。

マクロン大統領は「フランスをスタートアップの拠点に」というメッセージを発信しています。
経済・産業・デジタル大臣だった当時から推進してきたスタートアップ支援政策の一環でもあります。
最近、彼は「フランスを世界一のAI大国にする」と表明しています。

フランスはスタートアップ支援策「La French Tech」を講じています。
フランス国内のスタートアップ活動のブランド化を目指し、2013年に政府が提唱したものです。
スタートアップへの投資金額、件数は2017年までの3年間で3倍以上に増え、2017年には26億ユーロが投入されたそうです。

ただ、投資額は英国には及ばず、スタートアップブームとはいえ「成果が上がるのは1-2年後からだろう」と現地で聞きました。
ブロックチェーンなどで名を馳せているエストニアは規模が小さく、ヨーロッパではフランス、フィンランド、スウェーデンが元気と言われています。

ここに居を構えつつ、フランス・グルノーブルにあるXEROXのAI研究所を買収し、強力なインキュベーション活動を展開しているのがNAVERフランス。
LINEの親会社、韓国NAVERの子会社です。
そのハン・ソクジュ社長はぼくのKMDゼミ卒業生で、彼の案内で今回は参りました。

NAVERフランスはStationFで12社をインキュベーション中で、VCとしても機能しています。
これまで260億円、10社に投資したとか。
フランスNo.1のeスポーツチームVITALITY、高級スピーカーDEVIALET、VRジャーナリズム企業などのほか、お菓子や生理用品のスタートアップも支援しています。

ここに韓国の優秀な学生を選抜、インターンとして連れて来ています。
シリコンバレーに渡ってしまいがちのトップ級の人材を獲得する手段としてもパリ・StationFという場を活かしているそうです。

La French Techは前政権で文化通信大臣を務めたフルール・ペルランさんが進めた構想です。
ベルランさんは生後間もなくソウルの道端に捨てられ、フランス人の養子となってENAを卒業、30代で入閣した若き伝説の女性です。
彼女の存在がNAVERをフランスに向かわせたようです。

いまNetflexでは、虐げられた幼い主人公がアメリカに渡り、出世して朝鮮に戻り活躍するイ・ビョンホン主演の「Mr.Sunshine」が人気を博しています。
(ぼくは以前ハンさんに勧められ見始めたところハマってしまいまして)
ペルランさんとNAVERの結びつきはそれを上回るドラマを生むかもしれませんぞ。

NAVERは検索エンジンとして韓国内シェア75%。
独自技術でGoogleに対抗している世界的なIT中堅企業として、世界展開を強めます。
「世界はフラットになってきた。同じステージでGAFAを単独で追い抜くのは無理でも、あちこちと連携して面白くしかけますよ。」(ハン社長)

こういう意気込みとスピードで海外で勝負を打つ日本企業がどれくらいあるでしょう。
「StationFには韓国人・中国人は増えました。そういえば日本人は見かけませんね。あはは。」(ハン社長)
そうかい。
存在感を示すためにMr.Sunshineに登場する悪い日本人ぽく、羽織ハカマに刀さしてまた来ます。

2019年2月25日月曜日

iU iディアソン!

■iU iディアソン!

iUに興味のある高校生十数名とアイディアソンを開催しました。
どんな人の授業を受けたい? 
どんな学校にするといい?
この2点についてグループ討議。
いやはや、おもしろかった。

どんな人の授業を受けたい?

出た要望は、「いろいろ呼んで来い」。
クリエイター、デザイナー、作曲家。
要するに、つくるひと。
プロゲーマー、俳優、声優、YouTuber、VTuber、芸人。
つまり、表現者。
起業家、社長、政治家。
イノベーターやリスクテイカー。

つくるひと、表現するひと、たたかうひと。
なるほど、そういう人に会いたいんですね。
大学教授も、コンサルタントも、評論家も、要らないんですね。
わかりました。
ぼくもみんなをそういう人に会わせたい。
気が合います。

具体名も挙がりました。
落合陽一さん、伊藤穰一さん、孫正義さん、ホリエモンさん、ガッキーさん、本田圭佑さん、明石家さんまさん。
わかりました。
全員お越しいただきましょう。
それはぼくの役割です。

ウルグアイの大統領、という子もいました。
なぜかはわかりません。
つてはありませんが、がんばります。

任天堂・岩田社長、スティーブ・ジョブスさん、という名も挙がりました。
故人はむつかしいです。
AIで再現してもらいましょうか。
これはみんなが入学してからトライしてくれ。

失敗したひと、という声もありました。
しくじり先生ですね。
ホリエモンさんや杉村太蔵さん、そしてオリラジ中田さんにお声がけしましょう。

年下のスゴいやつ、というリクエスト。
驚きました。
ぼくはもうこのジャンル、年下のスゴいやつにしか目が行かないが、君たちもそうなのか。
プログラミング大会などではガチに小学生が大人を凌駕するしね。
デジタルネイティブはAIネイティブに負ける、認識があるのか。
その自覚、大事だと思う。



どんな学校にしたい?何したい?

「演劇部。映画部。鉄道研究部。遠足は秋葉原。
ドローンレースを開く。
iUまつり。iUオリンピック。
YouTubeプロを生む。
TVCMを作る。TVチャンネルを作る。
ロケットを打ち上げる。」
はい、ぜんぶできます。
ぜんぶやってください。

「文房具を作って売る。
ブランド品を作って売る。
キャラクター「iちゃん」を作って売る。
学生が作ったものを売る自販機を作る。
iUだけで食べられるメニューを作って学食をスゴくする。
食堂でサイエンスを売る。
大学内で使うソフトは作る。
仮想通貨を作る。
投資する。」
はい、やりましょう。

iUは「つくる」大学。そして、ビジネスプロジェクトの大学。
全員が企業インターンに行き、全員が起業する。
売る。投資する。問題を解決する。おもしろくする。
おもしろくしましょう。
実際、「i株式会社」も作って、みんなで入社しておもしろくビジネスをすることを考えています。

保護者のかたから「保護者にも図書館パスを」という意見が出ました。
保護者のかたも地域のかたも、i大でお楽しみください。
そして、学食をスゴくしてもらえませんでしょうか。
そんなかんじで、お願いします。

今日の結論。

ぜんぶやる。

2019年2月21日木曜日

iU vs ミネルバ大

■iU vs ミネルバ大
山本秀樹著「世界のエリートが今一番入りたい大学ミネルバ」。
ハーバード、スタンフォードなどの大学を蹴って入学してくる、話題のパンクな大学。
2020年の開校を目指すiUの一つの指針とみています。
(ちなみに、i大は世界呼称統一のため、今後iUと呼びならわします。)
iUと共通することが多い一方、方向が異なる点もあります。
まず、共通点を見てみましょう。

1.ミネルバは全授業オンライン化。講義を禁止し、反転授業+完全アクティブラーニング。少人数授業。

iUもこれをやりたい。講義禁止、っていう腹のくくり方がいい。
知識はスマホで取ればいい。リアルな授業はディベートと創作。これまでの大学とはガラリと違います。

2.企業・社会が求めるスキルを身につける。

iUもそうします。大学が教えたいことと企業が求めていることのズレをマーケット・インでなくします。
クリティカル思考・クリエイティブ思考・効果的コミュニケーション・効果的インタラクションというミネルバの4汎用スキルは参考になります。

3.テニュア(終身雇用制)なし。

iUもそうします。テニュアは大学教員に競争力と進化インセンティブがない元凶。
むしろいかに自らを競争環境に置くかの設計を重視します。

4.企業との協働、インターン重視。

iUはこれをより押出し、インターン必修の「企業と作る」大学とします。構想そのものを数十の企業とともに設計しており、企業との協働を教育の軸に据えます。

ミネルバ創業者のベン・ネルソン氏は当初、構想が資本家などから拒絶されたそうです。その後、ピーター・ティール氏やラリー・サマーズ氏らの大物に認められて動き出したとのことです。iUは、構想当初から数多くの企業に支持されておりまして、企業からのニーズに合致していると感じています。

5.安い学費。

iUもミネルバ大と同水準(年150万円程度)の学費とする予定です。日本の大学としてはそこそこですが、アメリカのアイビーリーグからみれば数分の1。しかもiUはそれ以上に自ら学費を稼ぐ仕組みを講じ、実質負担ゼロ、いや学費を上回る収入が得られるよう努めます。



次に、ミネルバ大とiUの違いを整理してみます。

1.ミネルバは「トップエリート大学」を標榜しています。教員もトップ級のアカデミズム出身者。

iUはそれを目指すのではなく、より産業界で活躍するプロ、イノベータを創出したい。このため教員の大半は産業界出身のプロフェッショナル。

2.「ミネルバ研究所」を併置し、研究にも力を入れる。教育+研究。

iUは産学連携の実証研究をたくさん進めますが、いわゆる研究機関ではありません。他方、学生の起業をフォローする「i株式会社」を併設、全教員と全学生がビジネスを展開します。教育+ビジネス実践です。企業との協働にリアリティーを持たせます。

3.ミネルバはキャンパスを持ちません。

いいね。iUは日本の設置基準に基づき、キャンパスを持ちます。なのでこれを最大限に活かします。本校舎は墨田区に、さらに起業連携の場として港区竹芝に拠点を置く。そこを教育特区にし、さまざまな実験・実証の場にします。濃い産学連携空間を構築します。

ミネルバが世界7都市を巡って学ぶというのは魅力的です。アジアはソウルと台北。そして完全寮制。これらはiUもチャレンジしたい目標。海外の大学と提携し、学生が行き来できるグローバル・キャンパス・パスポートを用意したいと考えています。

他方、iUは「全員起業」のチャンスを与えます。社会起業を含め、失敗を恐れずチャレンジする環境を整えます。これはミネルバにもない仕組みで、なるほど!と思わせる成果を上げたいです。
他にも、世界にない仕組みに数多くトライしていきます。

とはいえ、iUはまだ構想段階の絵空事。既に実績を上げているミネルバ大ははるか遠い目標です。でも、だからこそ、それを超えるアイディアとパッションを結集し、世界のとこにもない大学を作りたいと考えます。産業界のみなさま、ご一緒しましょう。

2019年2月19日火曜日

デジタル十大ニュース2018、1位はeスポーツ

■デジタル十大ニュース2018、1位はeスポーツ

デジタル十大ニュース2018。
ネット投票結果が出ました。
総数50269票!
過去最多。
ありがとうございます。
結果は以下のとおり。

1. eスポーツ元年。JeSU設立、吉本も参入。
2. VTuber爆誕
3. 海賊版対策、まとまらず。
4. 超教育協会設立、デジタル系業界団体オールスター
5. 新4K8K放送開始
6. 携帯電話4割下げ攻防、楽天の参入も
7. TikTokなど中国アプリ大人気
8. CiPファンド設立
9. PAYPAY100億円、10日で終了
10. デジタルサイネージアワード10周年

通信、放送、IT、ゲーム、アニメ、音楽、出版、国会、霞が関、自治体、コンサル、広告、お笑い、学術、コンビニ、法曹、不動産、アーティスト、製造、シンクタンクなど250名が参加して開かれた、どこより遅い新年会、平成最後の新年会「デジタル新年会」@霞が関にて発表されたものです。

1位は4096票。eスポーツの獲得は順当でしょう。新年会会場にもeスポーツ関係者の姿が目立ちました。産業として鼻息が荒く、学校も注目を高めています。2位にVTuberが食い込んだのは予想外。4027票を集めるデッドヒートでした。3位の海賊版、ぼくは戦犯につきコメントを控えます。1位でなくてよかった。

10位の入選に漏れたニュースには、
・メルカリ上場、ソフトバンク上場
・GAFAへEUが介入強化、日本政府も独禁法適用方針
・いたるとこから #metoo #metoo
・ファーウェイ、5G市場から締め出しか
・アリババ、独身の日3.5兆円
などがありました。どれも重要なニュースです。

さて、今年は何が入りますかね。

過去7年の十大ニュースは以下のとおりです。

◯デジタル十大ニュース2017
1. アツい!プログラミング教育
2. ビットコイン1年で20倍に
3. VR・AR普及。施設ができたり、ゲームが増えたり。
4. AIスピーカー普及の兆し
5. チケキャン閉鎖
6. カール東日本撤退
7. DeNA vs. ソフトバンク ~楽天でもよかったんだけど~
8. 楽天、第4の携帯会社に名乗り。
9. ロボットもいろいろ~aiboがでたり、バク転したり、戦ったり~
10. Nintendo Switch発売

◯デジタル十大ニュース2016
1位 ポケモンGO 配信開始
2位 PS-VR発売 VR普及元年 
3位 PPAP YouTubeから大ヒット
4位 Google AI アルファ碁、人間に勝つ
5位 邦画大ヒット「シンゴジラ」「君の名は」
6位 プログラミング教育必修化へ 
7位 4K出揃う。リオ五輪8K生中継も。
8位 キュレーションサイトの閉鎖ドミノ。
9位 ソフトバンク、ARMを買収 IoT本番へ
10位 チケット転売問題勃発

◯デジタル十大ニュース2015
1位 ネットが暴いた五輪ロゴパクリ問題
2位 首相官邸にドローン落下ですぐ規制
3位  AI・IoT狂想曲
4位 Apple、Google、AWA、LINE、サブスクリプション本格化
5位 マイナンバー制度開始
6位 DSにWii、任天堂岩田社長が逝去
7位 自動運転、グーグル、アップルなどの覇者争い
8位  VW、不正ソフト利用で排ガス規制逃れ
9位  ペヤングvsゴキブリ、販売停止と復活劇
10位 オンライン学習サービス、いよいよ本格化

◯デジタル十大ニュース2014
1位  LINEで決闘:「決闘罪」が適用される
2位  論文コピペ発覚で大問題~STAP細胞はあります~
3位 プログラミング教育 本格化
4位 ウェアラブル機器続々:GlassやらWatchやら
5位 非実在小4、どうして解散するんですか?を問う
6位 3Dプリンター事件:銃とかわいせつなものとか
7位 ベネッセ個人情報流出
8位 ロボットPepper登場。ロボットペットも復活。
9位 角川ドワンゴ統合
10位 mixi モンストで大復活!   

◯デジタル十大ニュース2013
1位 バルス祭り 14万tweet 世界記録塗りかえる
2位 特定秘密保護法とNSA通信傍受
3位 3Dプリンター低価格化で身近に
4位 オープンデータ進展
5位 冷蔵庫に入る若者たち~炎上相次ぐ
6位 ホリエモン出所
7位 あまちゃん・半沢直樹、テレビの底力
8位 4K8K/Hybridcast次世代テレビに期待感
9位 大阪市・荒川区・武雄市が2015年度までに子どもにタブレット配布
10位 ウェアラブル・コンピュータ時代到来か

◯デジタル十大ニュース2012
1位 どないしてん日本家電産業
2位 LINE8000万人、無料通話ソーシャルサービス戦国時代へ
3位 違法ダウンロード刑罰化
4位 コンプガチャ問題
5位 炎上大国ニッポン:市長も社長も教育長も
6位 ソーシャルなデモ多発:原発やら反日やら
7位 遠隔操作ウィルスで警察手玉に取られる
8位 アノニマス大暴れ!ACTAとか霞ヶ浦とか
9位 スマートテレビ始動:放送、通信、メーカーの本格対応
10位 ビッグデータは宝の山?

◯デジタル十大ニュース2011
1位 スマートフォン急激に普及 上半期出荷台数は1000万台超
2位 スティーブジョブズ氏死去
3位 復旧作業や安否確認にソーシャルサービスが活躍
4位 通信・放送融合法制が施行
5位 震災後 TVのネット配信が一時実現
6位 facebookの加入者 日本で1000万人突破
7位 タブレット端末 各メーカーから出揃う
8位  地デジ、被災三県除き整備完了
9位 DeNA野球参入に楽天が反対
10位 サイバー攻撃相次ぐ

2019年2月18日月曜日

「インターネット 自由を我等に」再考。

■「インターネット 自由を我等に」再考。

「サイゾー」から「インターネット 自由を我等に」に関連するインタビューが申し込まれました。
改めて、インターネットと自由を問うものです。
触発され、一文したためてみました。


ぼくが「インターネット 自由を我等に」という本を書いたのは1996年のことだった。
当時、旧秩序ががっちりしていた。政府、大企業、マスメディア、大学、どの分野も三角形のヒエラルキーがあった。
日本は米欧と3極をなす強さが残り、国境も頑然としていた。
これを突き動かすものとして現れたインターネットを等身大で捉えようとした。

それはまばゆい光に見えた。
個人が力を得る。表現や発信が自在になり、一億人の歩くテレビ局ができる。ビジネスも開花する。
全ての秩序をひっくり返す。パンクだ。
「私を」自由にしてほしい。

しかし破壊力が強すぎる。国との距離を測りかねた。だからネットを支援する意見がある一方、コントロールしたい意見も強かった。でもテクノロジーの必然に棹をさすのは無駄だ。
「ネットを」自由にしてほしい。

ぼくが書いた趣旨はその2点だった。

その後20年。見通せたこと、見通せなかったこと、両方ある。


事態は(だいたい)予想どおりに動いた。
99年にはiモードやブロードバンドが現れ、モバイル+映像で個人も組織もパワーアップした。2008年にiPhoneが登場、SNSも普及し、さらにパワーアップした。
MITネグロポンテが唱えた「ビットとアトムの結合」のうち、アトム(現実空間)のビット(バーチャル空間)への進出が完成した。

ビジネスはデジタル主導となった。
米の音楽売上は3/4がストリームとなり、時価総額上位5社はIT企業となった(Apple, Amazon、MS、アリババ、Google)。銀行もフィンテックになり、軍事もデジタルが主戦場だ。

個人はパワーアップし、マスメディアは相対化し、ヒエラルキーは崩れた。
連結した民衆にムバラク体制は倒され、トランプ氏はtwitterでマスメディアに対抗し、中国はネットを管理し、ISは海外の若者をネットで集める。

GAFAは並みの国家を超えるグローバルなパワーを手にした。
近代国家と企業との立ち位置が相対化した。
中国のファイアウォールは特殊事例ではなく、ネットの自由は制約を受けつつある。
EUはGAFAへの課税を模索し、GDPR(個人情報保護)やLinkTax(著作権)を持ち込む。
日本は海賊版を巡り、知財の保護と通信の秘密という両面の自由をどう確保するかで悩む。

このあたりまでは、だいたい見通せていた。
当時の識者はおぼろげながらもネットはこれくらいの破壊力を持つ波だと感じていた。


ぼくに見通せなかったのは2点ある。

まず、テクノロジーの進化が速度を高めること。

AIやIoTはぼくが98年にMITメディアラボに参加したときにはもう実装間近という雰囲気だったが、普及期に入るにはネットの普及からスマート化という段階を踏む必要があり、20年を要した。
ただ、本格普及が見えてからの、ネットからAI/IoTへの移行は速かった。

人類史を前後期に分けることになるシンギュラリティまでには間があるが、その前に、これほどの速度でビッグデータが最重要テーマとなり、データ主導社会が到来するとは。
土地や天然資源が農業社会や工業社会の原動力で、情報社会はそれが「知識」に移行すると考えられていた。
第4次産業革命やSociety5.0の時代、それが「データ」に移る。その資源の争奪戦となる。

ブロックチェーンはITが生んだ子どもだが、親を飲み込みかねない。
超分散を推し進め、商店も、銀行も、学校も、国家さえも、人々を仲立ちするサービス組織がみな力を失う可能性がある。98年ごろのネットに似た破壊力を感じる。
こんな技術の登場は想像していなかった。



もう一つは、ネットが資本主義に与える影響の大きさだ。

ネットは産業を活性化し、資本主義を強化する。
それは民主主義と並び近代が育ててきた両主義を成熟させると楽観視していた。
しかしネットは「資本主義」に退場を宣告する可能性がある。

それはネットが格差を拡大して、民主主義という平等圧力に反発するから、ではない。

ネットが財・サービスのコストを下げ、タダで使えるサービスが充実し、人々の利便を高め、生活を潤わせる。シェアリングエコノミーはさらにライフスタイルを豊かにする。生産・供給として金銭カウントされない経済活動が大きくなる。

GDPは伸びないどころか縮小する可能性がある。しかし利用者の効用=満足度は上昇する。
生産者余剰を換算するGDPでは経済を捉えられず、消費者余剰が大切な指標となる。経済成長がなくても幸せになれる。

資本主義は修正を迫られる。

それがどこに向かうのか未だ判然としないが、恐らく、資本主義が死ぬことはなく、デジタル情報が価値創造の源泉となる新タイプの資本主義が生まれるのではないかと考える。


話を元に戻す。

インターネットは我等を自由にしたのか。
「私」は随分と自由になった。だが私のデータは他者が吸い上げ、私自身はIoTで監視され、発信の自由が広がるほど、管理される度合いも高まる。どこかでほどよい塩梅に収まるのだろうか。

「ネット」はぐんぐん進化し、AIやブロックチェーンも乗っかって、自在性を増す一方、国家や地域は管理の度を強め、もう自由なパラダイスではない。
資本主義・民主主義が揺らぎ、自国第一の圧力も増す中で、ネットも無縁ではいられない。

インターネットは本格普及からまだ20年余りの黎明期にある。
成熟を迎えたとは言えない。
まして、それを使う人類はデジタル社会の入り口に立ったばかりで、作法も定まらない。

あと20年ほど経って、すっかり世代が入れ替われば収まりが見えてくる、ぐらいではないか。

2019年2月14日木曜日

「インターネットと自由」、Q&A。

■「インターネットと自由」、Q&A。

「月刊サイゾー」から「インターネットと自由」に関連する質問がありました。
ぼくが22年前に書いた「インターネット 自由を我等に」を踏まえての問い。
答えたことを記しておきます。


○インターネット黎明期当時、どのような問題が起こり、どのような規制が行われていたのでしょうか?

「インターネット 自由を我等に」を書いた頃、普及黎明期の90年代中盤、ぼくは政府初のインターネット担当となり(誰もいなかったので勝手に名刺にインターネット担当と書いた)、ネットが個人をパワーアップすることに着目して、推進する立場を明確にしました。

ただ、まだインターネットが人々を便利で豊かにするという認識が定着していたわけではない一方、電話中心の通信産業が大打撃を受ける可能性もあったことから、政府もスタンスが不明確でした。

政府としては、いずれにしろそうした通信網の基盤(光ファイバーなど)をどう格差なく整備するのか、インターネットの米国主導のヘゲモニーをどう扱うのか、といったことが関心事で、ネット規制論、特に情報内容やコンテンツに立ち入った議論はまだ強くありませんでした。


○「インターネットと自由」に関する象徴的な出来事は?

・表現:みんなが初音ミクをネット(ニコ動)で育て、世界のスターに成長させた。YouTuberが憧れの職業となった。

・政治:2011年、連結した民衆にムバラク体制は倒され、いまトランプ氏がtwitterでマスメディアに対抗している。

・国家:GAFAは並みの国家を超えるグローバルなパワーを手にした。一方、中国はファイアウォールを敷き、EUはGDPR(個人情報保護)やLinkTax(著作権)を持ち込む。

・日本は海賊版を巡り、知財の保護と通信の秘密という両面の自由をどう確保するかで悩んでいる。


○海賊版への規制、ダークウェブの取締り、あるいはGAFAなど大企業による独占が進んでいます。この規制/独占についてはどう感じますか?

海賊版、違法情報、巨大企業の公正競争といったことがらは、リアルな現実社会でも問題となったことがネットのバーチャル空間でも問題になっているということ。

むしろネットの大衆化により、リアル社会では何とか収まっていた問題がより先鋭的に現れて、解決が難しくなっているのだと思います。いずれにしろネットが特別の自由なパラダイスである時期は、大衆化に伴って終わりを告げました。


○現時点でのインターネットの自由と制限の問題を象徴する事例は?

何といっても海賊版サイトでしょう。
海賊版は知財・著作権という「財産権」を侵す一方、政府の対策会議で議論しているブロッキングは「通信の秘密」を侵し、ともに憲法が保障する自由をはさんで対立するものです。

知財とITという、日本が情報社会に向けて寄って立つ2つの領域がバッティングし、その調整が求められています。マンガ・アニメ大国である日本が、ITの落とし子である海賊版サイトにどのような解決モデルを構築するのかが問われています。

しかし恐らくこの事態は、対立を「調整する」という構図ではよい解が得られないのでしょう。むしろ、知財とITとが共存できる領域、両方の自由がともに発展できる場をこれから「作り上げる」という態度が大切ではないか。

インターネット20年にして現れた厄介な問題ですが、こういう問題は今後も登場してくる。それに立ち向かう知恵を寄せ合う、その姿勢が問われているのだと考えます。


○今後、インターネットの自由と制限については、どのような方向に進行していきますか?

ネットはPC・ケータイ+コンテンツの第一期の10年、スマホ+SNSの第二期の10年を経て、AI・IoT・ブロックチェーンの第三期に入ります。10年おきに大波があり、課題も拡大してきました。

まだゴールに辿り着いていないどころか、これからも繰り返し大波を受けるでしょう。国家も企業も個人もネットのユーザであり、ユーザが情報社会を築く努力は始まったばかりです。

グーテンベルクが活版印刷を発明し、人々が啓発され、宗教革命、市民革命、産業革命で近代を迎えるまでに3世紀かかりました。IT革命も世の中が切り替わるのにそれくらいの時間がかかるかもしれません。時間をかけてユーザが社会を作り上げていく、という覚悟が必要だと思います。

2019年2月11日月曜日

続 「デジタル資本主義」とは何か

■続 「デジタル資本主義」とは何か
NRI此本臣吾社長監修、森健・日戸浩之著、「デジタル資本主義」、つづき。

1. 消費者余剰、総余剰が重要であること
に並ぶもうひとつのポイント、
2. 資本主義が変容し、データ主導・知識生産性社会となること
について。


2. 資本主義の変容について。
 シェアリングエコノミーはモノのサービス化を進め、生産者余剰を下げ、経済を縮小させ得る。雇用・投資抑制的な性格を持つ。
本書はそう説きます。
同意します。シェアエコは成長戦略の文脈で捉えるのは危険であり、福祉増強=消費者余剰の観点で推進すべきと考えます。

シェアエコが代表する経済は全ての活動がネット=データ主導となります。
それは労働をインプットして付加価値を生む「労働生産性」中心の社会が、データをインプットして付加価値を生む「知識生産性」の社会になること。
本書はそうした「デジタル資本主義」を展望します。

現在80億台が連動するIoT機器が2020年には500億台になり、1年で生んでいた情報量が1時間で生まれるようになる。
無論それは社会経済の姿を根本から変えるでしょう。
恐らくAIが組み込まれる社会経済もまたドラスティックに変容するでしょう。

本書はその技術主導による未来は国・地域により多様な姿になると想定します。
経済・社会・歴史はローカルなものだという見方です。
同意します。
日本は日本型の技術消化と社会構築をするに違いありません。
これまでもそうであったように。

気になるのは、現在の世界的な長期停滞の要因をイノベーションの低さに求める説を説明するくだりです。
21世紀のイノベーションは、電気、航空機、自動車、家電など20世紀の発明に比べ小さく、未開拓の土地や未教育の子供がいた過去に比べ容易に収穫できる果実が少ないとするものです。

それはITやAIのインパクトをどれほど本質的なものと評価するかによって見解が分かれるのではないでしょうか。

ぼくはこの21世紀の変革は喉元を過ぎたばかりであって、消化され養分が回るのはこれからだと考えます。
この後、人類は体質を変え、本書の指摘するデジタル資本主義に至るのではないかと。

展望として、本書は1.資本主義が終焉する、2.産業資本主義が高度化する(インダストリー4.0)、3.デジタル情報が価値創造の源泉となる新タイプの資本主義が生まれる、の3種を挙げ、第3の説を採ります。
ぼくもそうなる予感がする、というか、そうなると楽しいと考えます。確証はありません。

ただ、格差を本質とする資本主義と平等を旨とする民主主義の「強制結婚」が解消される、という分析にはざらつきを覚えました。米英で資本主義の粋であるグローバリゼーションが民主主義によって否定されたことは、もはや新しい資本主義と政治との折り合いを求める事態に踏み入っていることを示します。

本書はデジタルが資本主義と民主主義のバランスを取り持つ仲介役を担うことを示唆しています。
資本主義を変容させるデジタル技術は、ソーシャル化はじめ政治と民衆の関わりも変容させつつあり、その両者が融和する方向に作用するとよい。
ただそれはまだ形が見えているわけではなく、願望に留まりましょう。

本書は、デジタル化の進展と成熟に身をおいて経済を分析しながらも、そのインパクトが歴史的な強大さをもつため、まだ人類がその効用を測り得ていないことを示しています。

ぼくが長い間もやもやしているのも、デジタル化とは何かという軸が未だ背骨として作れていないせいで、その掻痒感を共有してくれる書です。

2019年2月7日木曜日

「デジタル資本主義」とは何か

■「デジタル資本主義」とは何か
「デジタル資本主義」NRI此本臣吾社長監修、森健・日戸浩之著。
デジタル化で長期構造が変化し、従来の経済指標は陳腐化し、政策の方向がズレている。
ぼくが10年以上わだかまっていること、もやもやとうまく主張できていないことを、理論やデータに基づきストレートかつ重厚に打ち出してくれた好著。

本書のポイントは、
1. 消費者余剰、総余剰が重要であること
2. 資本主義が変容し、データ主導・知識生産性社会となること
この2点を説き起こしたことです。

1. 消費者余剰について。
2010年ごろから生活者が生活レベルが向上したと感じているという調査結果を示します。
ネットで利便性が増す一方、モノの価格、流通マージンなど財・サービスのコストが下がっている。GDPは停滞し賃金は低下傾向にあるが、生活の質が豊かになったという主観の現れです。

消費者余剰が上昇し、生産者余剰が下落しています。
消費者余剰は消費者の「お買い得感」であり、生産者余剰は価格vsコスト。
本書は、この総和である「総余剰」GDSが真の付加価値であり、新しい指標となるべきと説きます。
・・強く同意します。

サーチコストやコンテンツ複製コストがゼロになる。無料のデジタルサービスは消費者余剰のみを生み出す。それは生産者余剰を圧迫します。
そして、生産者余剰は客観的な数値で弾き出されGDPに反映されるが、消費者余剰は主観によるもので、GDPに反映されません。GDPという指標が限界を見せています。

スポティファイは消費者余剰2兆円、生産者余剰600億円で、消費/生産比は33倍、という試算を本書は提示します。従来型企業は1未満なので、とんでもない数値です。MITスローンのEブリニョフルソン教授はアメリカの消費者余剰を78兆円と試算、NRAは日本に当てはめると42兆円と弾いています。

これに関し、くだんのブリニョルフソン教授が著書で「GDPの限界」について論じています。
「ザ・セカンド・マシン・エイジ」
以下の4ポイントです。

1)ネットで音楽は売上が4年で40%下落、経済統計からも消えたが、クオリティは上がり、人はよい音質の音楽を大量に聞くようになった。モノ・サービスが生む消費者余剰をどう計測するか。$1で買っていいモノがタダで買えるならGDPが$1減って消費者余剰が増えるが、どちらが指標として重要か。

2)値段がゼロだと生産の数値はゼロだが、無価値ではない。ネットで検索や取引などがタダでできることの生活満足度、共有経済による便益もGDPに反映されない。GDPに情報産業が占める割合は4%。これは80s後半から変わっていない。「ITが生む価値を反映していない。」

3)時間というリソースをどう計測するか。米国人がネットで使う時間は10年で2倍に。時間価値をネットに向けている。2012年、フェイスブックの利用時間はパナマ運河建設に要したマンアワーの10倍。これはGDP統計にカウントされない。

4)今後の生産は、知財、組織資本、UGC、人的資本の4つの無形資本財に依存する。しかしGDP統計では無視される。そこで、国連開発計画の人間開発指数、OECDのプロジェクトなど新しい指標づくりが模索されている。

ぼくは10年前、政府がコンテンツ政策の目標を「産業規模の拡大」に据えた時に異議を唱えました。コンテンツの生産・消費量の拡大に置くべきと。結局、日本のコンテンツ産業規模は縮小しているが、みんなが発信するコンテンツ量は何十倍も増えています。ただ、まだこうした指標は採用されていません。

それに先立ち「ポップパワープロジェクト」をスタンフォード日本センターで立ち上げた際、スタンフォード側から指標化すべきとの指摘がありました。GNPならぬGNPP(Gross National Pop Power)を作れと。ですが指標化は、うまく行きませんでした。
改めて新指標づくりが求められています。

これに関し、総務省の情報通信白書がICTの消費者余剰分析に挑戦したことがあります。
「企業経営に警鐘を鳴らす情報通信白書2016」

白書は「ICTの価値は企業側と消費者側それぞれにもたらされるが、企業側は最終的にGDPの増加等として既存統計でとらえられるのに対し、消費者側は既存統計でとらえられていない部分(非貨幣的価値)がある」とし、①消費者余剰、②時間の節約、③情報資産(レビュー等)に着目して分析しました。 

①音楽・動画視聴サービスを事例に年間の消費者余剰額を推計すると合計でおよそ1097億円。
②時間の節約について、ネットショッピングでは1回あたり40分~1時間程度の節約になった。
③ネットショッピングでは、8割以上の利用者がレビューによって購入する商品を決定した経験がある。

消費者余剰はもっと大きい、という気はしますが、まずはこれに取り組んだ姿勢を認めたい。この分析を厚くし、精度を高めていくことは、世界的な貢献となると考えます。ぼくは白書編集委員としてその試みを強く推奨しました。

消費者余剰や総余剰をGDPや経済成長主義に替えて重視する意見はごく一部で囁かれることであり、本書のように有力なセクターから正面切って打ち出されたのは画期的だと考えます。
このための本格的な調査研究を国際的に進めることを期待します。

(つづく)

2019年2月4日月曜日

変わるもの・変わらぬもの--ボストンの20年

■変わるもの・変わらぬもの--ボストンの20年
あと数年で還暦である。10年一昔を6回過ごした。ただ年を取ると10年前などつい先日に感じる。慶應で大学院KMDを作って10年だが、まだ振り返るほどの蓄積ではない。ひとまとまりの記憶は20年がほどよい。それを、年を取ったという。その蓄積は特権でもある。

20年前に役所を辞め、ボストンに渡った。久しぶりに訪れてみると、随分変わっていた。いや、全く変わっていなかった。どちらもだ。随分変わるには時間が要る。全く変わっていないと感じるにも時間が要る。それを、年を取ったという。

当時、ネグロポンテさんが所長を張っていたMITメディアラボは、槇文彦さんが設計した建物が完成し拡張していた。ぼくが設立に奔走したMIT Okawa Centerも発足していた。出資者の大川功さんはもうこの世におらず、今メディアラボの所長は日本人が張っている。

いや。休日はラボで遊んでいた息子たちが平日に通っていた古い小学校のたたずまいは微動だにせず、時を止めている。似た赤レンガのハーバード大学も、その脇をたゆたうチャールズ川の輝きも、その向こうのボストンコモンズを走り回るリスたちも、止まったまま。

いや。MITでプロジェクトを共にしたチームが作ったプログラミング言語scratchは世界を席巻した。Napsterのトラフィックが問題となってMITで使用禁止令が出たネット環境は収まりを見せ、ようやくメディアラボが得意とするAIやIoTの時代が巡ってきている。

いや。相変わらずグリーンラインは少年ナイフ「Bye Bye」が歌うように陳腐に街を横切る。チャールズ通りに住んでいたころ通ったカフェのチョコクロワッサンも、客の姿をみかけたことのない骨董品屋も、強い睡眠薬を買い込んだ薬局も機嫌よくそのままだ。

いや。くそマズいラーメン屋ばかりだったが、旭川の名店が軒を出し賑わっている。MITの食堂にもテリヤキなど和食コーナーがあり驚いた。金融街にはロボットが調理する食堂がお目見えしていた。道路脇の駐車はスマホのアプリで支払う仕組みになっている。多少は便利で暮らしやすくなったのか。

いや。分岐だらけの迷路のような道はドライバーを今も悩ませる。人が管理する駐車場は一瞬なのに30ドルをふっかけぼったくる。スーパーの姉ちゃんにワイン売場を尋ねると、面倒そうに「ない」の一言で済ませる。911の頃、すさんでいるという言葉がよく浮かんだが、トランプ政権でも多少それが浮かぶ。

いや。名門の子供博物館は内装がすっかり変わり、アトラクションも真新しい。ボルダリングやビデオ編集など今風の工夫。ここに東京メトロ、銀座線の黄色い車両が置かれていたのに鼻を高くしていていたが、もうその姿はなかった。日本の存在感が下がった20年、かもしれぬ。

いや。科学博物館は何も変わってはおらぬ。巨大な恐竜は素通りされ、電気の仕組みを示す巨大な装置も不人気のままだ。それでもアメリカは巨大が身上であり、巨大を続けなければならぬ。子供たちは巨大を学び続ける。

いや。当時はいつも息子たちと来ていた。だから、ぼっちだと所在なくやるせない。子供博も科学博もデジタルが幅を利かせるが、それは一体、子どもたちをいかに刺激し、いかに拡張したのか。自問する。

いや。この魚のキャラクターを自分でアレンジし、バーチャルな水族館で泳がせる仕組み。20年前と変わらず、ここにある。これはMITメディアラボが制作したシステム。似たものをどこかでご覧になったかたもおられると思うが、ラボ元祖のラボらしいエンタメである。

ぼくのボストン後の40-50歳台はスマート化の時代だった。多くが変わり、多くがそのままだ。
ぼくがパリにいた30台前半からの20年は、デジタル化の時代だった。50になってパリを訪れたときには、フランがユーロになっていて、みながタバコを吸わなくなっていたほかは、何も変わっていなかった。

ぼくが京都から上京した20台前半からの20年は、バブルを折り返しにする昇降だった。スタンフォード日本センターの所長として40台頭に帰郷した時には、関西財界に力はなく、鴨川はきれいになり、先斗町が若者の路地と化していた。

8歳で静岡から京都に夜逃げしてからの20年は成長の時期だった。万博、中高大を経て上京、社会人となって20台後半に生家を確かめに行くと、すっかり風景は変わり、既に当時の人はなかった。毎日遊んでいた安倍川の川原は、大風のたび家が流されていた貧しい集落が美しい緑地と化していた。

川原の兄貴分、静岡商業・新浦壽夫さん。巨人の星のモデルが決勝で1-0で敗れたのは甲子園50回記念大会だった。凱旋パレードを見た。ぼくがボストンを訪れた時、iPadの紙面を賑わせていた高校野球は100回記念大会。あれから夏を50数えた。過ごした夏や冬を思い起こしてみる。年寄りの特権である。

ボストン美術館にある、ムンクの一番好きな作品。
曾我蕭白の「雲龍図」をデジタルえほん作品にしたこともあったな。

伝統とテックの入り交じるこの街、変わる。変わらない。