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2021年10月25日月曜日

ジュリーの世界

ジュリーの世界


増山実さん著「ジュリーの世界」読む。

河原町のジュリーという実在の浮浪者を媒介に、1979年春からの1年を描くドキュメンタリーのような小説。

もう知る人も少なくなったジュリーという極地的な人物は、ぼくの大学生活をすっぽり覆う極私的なアイコンでもあります。


河原町のジュリー。

いつも河原町界隈、三条から四条、新京極と寺町京極という狭い区域をとぼとぼ歩いているので、現実には河原町という枕詞はつけず、単にジュリーと呼ばれていました。

本家・沢田研二さんは鹿ヶ谷出身の京都人でありますが混同されることはおません。


煮しめた背広、コールタールのように固まった髪、短いズボン、ボロボロの革靴。

真っ黒で判然としないが愛嬌のある顔つき。声をかけても返事はなく、話すこともおません。

浮浪者。

ホームレスではない。三条のリプトン前が定宿。

河原町一帯が「家」なのです。

皆が許していた。

共に生きていた。


79年春から1年間の物語。

大学に入ったぼくは、高校を出て警官になったこの主人公と同い年。

同じ時期、同じ場所で、毎日ジュリーに会っていたはず。

年初に三菱銀行人質事件で梅田が射殺され、インベーダーゲームといとしのエリーが流行っていた。紳竜が誰カバで暴れたが翌年の漫才ブームは予期できなかった。


阪神は前年、空白の一日で江川卓を1位指名し、トレードで小林繁が入団した。

田淵古沢ブリーデンがいなくなった。真弓若菜竹之内が来た。

掛布ラインバック藤田スタントン中村勝。江本山本和工藤伊藤上田。

小林は巨人に強かった。チームは弱かった。

そして岡田を1位指名した。


高校を出て、自由になれると思った。

そのとたん目標がなくなった。

紛争の跡が残る大学、授業はどれもハマるものがなく10分ともたず、たちまちドロップアウト。

小説に登場する駸々堂でガロや夜行を買い込み、六曜社あたりの茶店にこもってむさぼり読んでいた。

ぼくは、こっちの世界や、と思った。


今はなき成人映画八千代館や桜湯や京都花月やスカラ座、今もある三嶋亭やバー・サンボア、せっまいせっまい界隈をうろついていた。

夏に発売されたウォークマンでパンクを聞きながら、毎日のようにジュリーを見かけた。

リプトン向かいの十字屋で少年ナイフがレコードを作るのは3年後のこと。


これぢゃいかんアホになる。

手に職を、と思いたち、夏、界隈の純喫茶数店にバイト面接に伺ったが、素人は要らん修行してこんかいとみな落ちた。

修行は三条河原町下ルの大きい店でする習わしらしく紹介を受け入門した。

立ちん坊で働く日々となった。

時給400円。阪神ファンとつぶやいたら10円上がった。


コーヒー淹れていいのは、りんごの皮を縦にシャッシャと包丁でむける熟練者のみ。

ぼくはシャッシャできなかったが、片手で丸トレーにグラス立ててフロアをうろつくウェイター業は今もできる。

バイト長はぼくをなぜか橋本くんと呼んだ。

マヂラブ村上さんが本名鈴木さん、みたいなものと今はわかる。


晩、河原町を歩くジュリーにサンドイッチなどの残飯を渡そうとした。

ドギマギして受け取らない。ぼくを避けて四条方面に下がっていった。

「橋本くん!」

バイト長にひどく叱られた。

「ジュリーは中華専門なんや。」

それぞれショバがある。ぼくはエコシステムを壊そうとした。反省した。


ジュリーと何か話してみたかった。接点を持ちたかった。

理由はわからない。

見下して、ではないと思う。

憧れて、でもないと思う。

なんだろう。

特異な存在として街と同化することへの、愉快な好奇心だったのかな。

いずれぼくもノマドになるだろう、自分の未来像への共感だったのかな。


小説でジュリーは極楽鳥を解放することに加勢する。

何かを抱え、何かを見つめていた。

うん、そんな人だったかもしれない。

戦争から復員して性格が変わったひと、と描かれる。

戦後35年だった。あれから今のほうが時を経ている。戦争がまだ近かった。


普通の中学生にジュリーが襲われた事件も。

「パッチギ」が描いた修学旅行生の暴力事件がゼロになった年。

作者はガキどもの紛争を「健全なエネルギーの発露」と見て、子供たちは「闇の方に向かっている」とする。

ぼくもそう思う。その頃から、世間は清潔になったが、不透明で分かりにくくなった。


842月、ジュリーが死んだ。界隈から少し離れた円山公園で凍死していた。

記事を覚えている。

死がニュースになる、名もなき浮浪者。

雪のしんしん降る冬だった。

ぼくはその頃つらいことがあり、あれこれ捨てて上京する支度をしていた。

寛容のアイコンが失われ、世間はおおらかさも失っていった。


今なぜ「ジュリーの世界」なのか。

進化に背を向けて、浮浪すること。その意味。

異物を受け容れ、共生すること。その意味。

コロナがぼくたちに問いかけるものを、あの時分、ジュリーも、ぼくたちも、見ていたのかもしれない。

あの頃の景色を、思い描いてみます。

2021年10月18日月曜日

通信の世紀

■通信の世紀



大野哲弥さん著「通信の世紀 情報技術と国家戦略の150年史」読む。

通信主権とインフラ整備を巡る明治からの攻防。

国家間の熾烈な政治・軍事闘争と、国内の通信産業に関する政官民の暗闘。

これを読むと、今のGAFA対策が幼稚に見えてしまいます。


近代以降、情報・通信が国家の重要な政治案件で、日本も首相・大臣らによる高次な政治判断の連続であったことは、2013年刊行の有山輝雄さん「情報覇権と帝国日本」にも丁寧に描かれています。

いずれも通信ヲタク必読。

http://ichiyanakamura.blogspot.com/2014/05/blog-post_26.html


国内・電電公社、国際・KDDの独占時代にぼくは通信官僚となりました。

電話自動化という技術的エポックの中、KDD事件という疑獄が発生、通信自由化に一直線に進む。

その後、通信開放を巡る米英との攻防、NTT再編、規制緩和へ。

自分の仕事史としても懐かしい。


大野さんは、90年代末のNTT再編と規制緩和に関し、技術進歩と市場変化に当事者能力を欠いた「郵政省の行政の破綻」、という厳しい見方をとります。

中の人だったぼくは、純粋な行政の進化と受け止めていましたが、その後待ち受けた省庁再編=郵政省解体からみるに、大野さんの見方が正統なのかな。


だけどそんな100年の攻防を続けた戦場は、インターネットでがらりと変わりました。

日本のキャリアは国産となり、AT&TBT、ボーダフォンも撤退。

しかし通信の主役は上のレイヤに移り、GAFAが主導します。

海底ケーブルもGoogleAmazon、マイクロソフトが握ろうとしています。


電気通信事業法がgmailなど海外サービスを対象とするようにしたのはようやく昨年のことで、インターネット前の国際攻防を知る身としては、帝国主義下の清国を見るようでした。

EUに先駆けてもらい、米国との間を取って生きる。これが今後数十年の処し方なのかな。


「ぼくは100年前に生まれても、逓信官僚を目指したと思います。」

7年前「情報覇権と帝国日本」読後感ブログの最後にそう記しました。

今も変わりません。その分野に入って、政策起業してみたいです。

2021年10月11日月曜日

デジタル政策の産学官フォーラムが発足しました。

デジタル政策の産学官フォーラムが発足しました。





産学官によるデジタル政策の議論プラットフォーム「デジタル政策フォーラム」が発足しました。

経済社会、技術などデジタルに関する横断的なテーマをオンライン・オフラインでオープンに議論・提言していくコミュニティ。

広く知恵を連結して、論じ、アクションを起こす場です。

https://www.digitalpolicyforum.jp/






趣旨「近年、セキュリティ対策、サイバーテロ対策や知的財産保護など課題が広がる一方、AI、ビッグデータ、IoT5Gなど技術革新が進み、新しい国際的な政策アジェンダが立ち上っている。デジタル政策について議論し、提言するコミュニティを形成する。」






発起人はぼくのほか喜連川優国立情報学研究所所長、坂村健東洋大学教授、徳田英幸NICT理事長、堀部政男一橋大学名誉教授、村井純慶應義塾大学教授。

大学などの研究者、デジタル庁、知財本部、経産省、総務省、文化庁など省庁からも参加しての発足。

谷脇康彦 前総務審議官も事務局に参加しています。


発足時賛同者:東京大学江崎浩さん越塚登さん宍戸常寿さん森川博之さん柳川範之さん山口いつ子さん渡部俊也さん、慶應義塾國領二郎さん砂原秀樹さん土屋大洋さん中村修さん夏野剛さん、京都大学依田高典さん曽我部真裕さん、


一橋生貝直人さん同志社河島伸子さんスタンフォード櫛田健児さん中央実積寿也さん九州篠﨑彰彦さん武蔵庄司昌彦さん東工大西田亮介さん名古屋林秀弥さん。

弁護士板倉陽一郎さん森亮二さん、情総研大平弘さんMRI村上文洋さんJIPDEC寺田眞治さんKDDI総研花原克年さん博報堂島野真さん。


NICT盛合志帆さんFMMCワシントン寺本邦仁子さんAPT近藤勝則さんIPA境真良さん、

デジタル庁赤石浩一さん総務省今川拓郎さん経済産業省佐々木啓介さん内閣府知財本部田中茂明さん文化庁吉田光成さん。

デジタル政策を論じる中心人物が集まりました。まだまだ増えます。


最初のアジェンダとして、5つ提示しました。

データ駆動社会:データ流通市場やプラットフォーマー対策

ボーダレス市場:データ取引の国際ルール

市場構造変化:特に通信分野のレイヤ構造や競争環境

知財政策:デジタルコンテンツの戦略

ルールのあり方:ハードローとソフトロー、共同規制などの枠組






キックオフシンポを高地圭輔総務省情報通信政策研究所長、犬童周作デジタル庁審議官、石戸奈々子慶應義塾大学教授と開きました。

「デジタル敗戦」をどうみる?これからどうする?


「インフラ整備は及第だが、産業界も行政も学校も、利用面がダメだった。」

社長と役人と先生のせいですか。

「女子高生など若い世代は先端を走ったが、昭和の成功体験を引きずる世代が邪魔をした。」

つまりぼくの世代ですな。同意。ぼく以上世代を関わらせないよう「黙れジジイ」運動を続けましょう。


政府の各種委員会に参加する石戸さん「われわれ委員より、後ろの役人のほうが情報も問題意識も答案も持っているはず。もっと前に出てはどうか。」

これもぼくは戦犯。昔は事務局がガンガン発言していたが、霞が関の不祥事などでバッシングされ、いま官僚は黙っている。もったいない。


発足したフォーラムは、官僚諸君にも入ってもらい、役所では憚られる議論も繰り広げられるよう場をしつらえたい。

ジジイの贖罪は、産学官の若い世代が暴れる場を作ることと、守ることと心得た。


縦割りの省庁に横串を刺すのがデジタル庁の役割なので、うまく融合してほしいが、自民総裁選を前に情報通信省やらサイバー庁やらの声が政治から上がってるね。

犬童さん「デジタル庁始まったばっかりなので、ちょっと待ってほしいw


産学官連携の課題は? 

石戸さん「学と経済社会に距離があることが大問題。アメリカは新機軸を大学がプラットフォームになって起こしてきた。」

同意。フォーラムは学が汗をかき、イノベーションを起こす場にもしたい。




コロナで昭和以来の状況が一変しました。

デジタルのプライオリティが頂点に躍り出ました。

好機ととらえて、球を前に転がしましょう。

2021年10月4日月曜日

祝・デジタル庁発足シンポジウム。

祝・デジタル庁発足シンポジウム。





「デジタルリスクフォーラム2021」@竹芝。祝・デジタル庁発足。

世界の先を行く竹芝のスマートビルが開業してちょうど1年です。そのイベントにお越しいただいた直後に初代デジタル大臣に就任された平井卓也衆議院議員を改めてお招きしました。

https://newmediarisk.org/draforum2021






主催者としてあいさつしました。

「スマホやSNSが普及して、炎上事件が多発したのが10年前のこと。

その翌年、ニューメディアリスク協会、別名「炎上協会」を設立しました。

その後、AIIoT、ビッグデータなど環境も変化して、デジタルが社会経済にとって最重要テーマとなりました。


同時にコロナが世界を襲い、デジタルが一層重要性を帯びました。それで認識されたのが日本のデジタル敗戦。行政も医療も教育も、そして企業も遅れていることが明らかになりました。

平成元年、世界一だった国際競争力は34位まで後退、明らかな没落、その30年はデジタル不作為の30年でもありました。


ここでのDXがラストチャンス。日本はものづくり力、デザイン力、教育や治安など世界に伍す実力を維持しています。コロナ後、DXで再生することが十分に可能と信じます。

ただ、一気のDXは同時にデジタルのリスク増大につながる。そこで協会も昨年、デジタルリスク協会と名を改め、新体制を敷きました。


軌を一にしてデジタル庁が発足したことを歓迎します。ようやくデジタル行政の重要性が認知され、ふさわしい初代大臣をいただき、船出されたことを喜びます。

1年でたくさんの関連法を整備し、ヒトを集めて発足しました。平成には見られなかった馬力のお仕事で、令和に希望が持てました。


ここ竹芝の拠点は、五輪のタイミングに街開きすべく設計してきたスマートシティ。

5G、ロボット、IoT、データなどデジタル技術をてんこ盛りにした特区としてデザインしました。デジタル庁はじめ政府ともデジタルで連携し、仕事をしていきたい。」






デジタル監に就任した石倉洋子さんがコメントをくれました。

石倉さんは慶應時代の同僚で、部屋も隣でした。

石倉さん「先生禁止」とおっしゃる。iUと同じです。トワイエ「石倉さん」では芸がないな。

石倉監、デジカン、洋子ちゃん、何がいいでしょう。


平井大臣が言いました。

10年後、デジタルという言葉は使われなくなる。デジタルを意識しなくてよくなる。」

いい姿勢です。デジタルを社会に溶け込ませていく。全てがデジタルになる。消し込む。これぞBeing Digital

仕事が成功したらデジタル庁はなくなる。これが目標。


今は官庁DXをどう進めるか、に話が集中していますが、議論になったのは、都市やライブをどう開発するか、地域や家族や食事をどうプロデュースするか、というアナログ文明を塗り替える大きな構え。そのような政策に進むならエキサイティングです。

よろしく。






「国会議員は幸せを求めてはいけない。長くやると、恐ろしいひとになる。」

とつぶやく大臣。

むむ~

一年前もそうだったんですが、今回も、総裁選直前で内閣が変わるタイミング。

重いものを抱えておられるんでしょうねー。

おつかれさまです。でも長くやってください。