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2011年5月16日月曜日

10年前のプレゼン -7 「パンクはまだ来ない」


■Buenos 10年前のプレゼン -7 「パンクはまだ来ない」

「Digital Punk 21 in東京大学 2001年1月 MITメディアラボ客員教授 中村伊知哉」の問題提起21点、No.14とNo.15。

8. 国際化より土着
・ 少年ナイフ、HANA-BI

 渡米してつくづく骨身にしみたのは、日本政府で上げた業績など何ら価値がないということ。どんな法律を作り、どんなプロジェクトを立ち上げ、どんな社会形成に寄与したか。なんてことはアメリカから見れば地球の片田舎の壁新聞ぐらいの値打ちしかない。
 だけど、そんな連中も、「少年ナイフ」やってましたとつぶやいた瞬間に表情も態度もガラリと変わる。晩飯テーブルの入口近くに座っていたのが主賓席に移れと言われるぐらい常にインパクトがありました。世界で認められるコンテンツを出すことの値打ち。
 だけど、その少年ナイフの国際性というのは、実に日本土着のものだとぼくは思うのです。戦後、海外から入ってきた洋楽を日本が吸収し、日本なりの調理法を確立し、日本なりの洋楽を作った。少年ナイフは、ヘビメタやグラムを経て、煮詰まった世界のロックシーン、パンクやニューウェーブが巻き起こる中で、日本から最もシンプルな形で、「音楽ってこれでええんちゃう?」という回答を日本テイストで示したのだろうと思います。

 そういう話は当時、映画でもありました。97年のカンヌで今村昇平「うなぎ」がパルムドールを、河瀬直美「萌の朱雀」がカメラドールを獲得。98年ベネチアでは北野武が「HANA-BI」でグランプリ。これらはいずれも日本の土着を描いた作品で、エキゾティシズムでもオリエンタリズムでもなく、等身大のアジアが欧州に評価されたのでした。とことんローカルなものこそが国際性を持つ。世界が平板になった。その証明。
 極めつけの「千と千尋の神隠し」がベルリンでグランプリを取るのは2002年。キル・ビルやラストサムライが日本テイストをハリウッドから世界発信するのはさらにその翌年。だけどその胎動はこの講演の時期にもう沸き立っていました。


9. 道路より広場
・小澤征爾、ピカソ
・ 印象派、ヌーベルバーグ、パンクはまだ来ない

 日本として、どういう環境を用意すべきなのか。エリック・レイモンドが既に「伽藍とバザール」で喝破していたとおり、「場」でありましょう。インターネットはクリントン-ゴア政権が情報ハイウェイと唱えたため、道路のイメージが強かったのですが、この講演のころにはすっかり広場になっていました。
 しかも、教会のように、お偉方が民衆に教義をたれる放送型の集会ではなく、みなが自分のアイディアや商品を持ち寄ってつながるバザールのようなコミュニティです。そのコミュニティ力がこれからの社会を制する。今では小学校の教科書にも載りそうな常識ですが、当時はまだそうした見方は少数でした。
 そのような折り、ボストンの地方紙が「ボストンを代表する人物」というアンケートを取りました。1位が小澤征爾さん。ボストンを代表する外国人、ではありません。全ボストニアンの中で、外人である小澤さんがトップ票。東京にしろ横浜にしろ大阪にしろ、その街を代表する人物として外国人が上位に食い込むことは日本ではまぁありますまい。
 だけど、100年前のパリの文化をスペイン人たるピカソやロシア人たるシャガールが作ったように、オープンさはコミュニティの価値を決定します。そうしたオープンさは、リアルな街だけでなく、オンラインのコミュニティも同様。そういう場をプロデュースできるかどうかが問われるわけです。

 ところで、絵画でいう印象派、ファッションでいうココ・シャネル、映画でいうヌーベルバーグ、音楽でいうパンクロック。こうした「表現の転覆運動」は、まだデジタルでは起こってはいない。転覆運動はおおむね、表現様式が確立し、動きが澱んだところで発生する。
 インターネットが普及したが、連続的な表現変革の爆発が起きるのはまだこれから。それは、映画やテレビやゲームといった既存のジャンルで食えなくなった人たちが流れてきている現状では起こることはなく、デビューからいきなりネットやモバイルという新メディアで勝負する新世代が起こすことなのです。そろそろ起きるんじゃないでしょうか。

 これが当時のプレゼン。そして、その後、起きましたね。GoogleやYouTubeやFacebook、日本ではニコ動やmixiや魔法のiらんど。それらの上でネットメディアにしかできない表現が花開いてきました。かつてのような、天才アーティストがガツンとくる作品を打ち出すというよりも、大勢の連結したひとたちがコミュニティやコミュニケーションを奏でるという形で。
 天才の力量は、コンテンツの面よりも、アプリケーションやプラットフォームなどのツール面に強く発揮されています。しばらくこの基調が続くでしょう。一人の天才がガツンと行くのはアナログでリアルの得意技。多数による参加とコピー・流通推奨というデジタルの特性を最も活かす方向でシステムが開発されていき、その上でのコミュニケーションが新しい表現や文化を紡ぎ出していく。

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