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2026年4月6日月曜日

毛利嘉孝さん著「ストリートの思想」。

毛利嘉孝さん著「ストリートの思想」。




京都は散歩に適している。しかし書店に立ち寄ってはいけない。必ず引っかかるものがあり、手にし、レジに向かってしまう。毛利さんの「増補新版」なんてものが平積みにしてある。買うてまうやろ。2009年に刊行されたものに増補を添えて24年に文庫になったのだという。


時は90年代。ゴリゴリの左翼から「ストリートの思想」へと動く。左翼の支持基盤が、非正規雇用者やフリーターなど新しい階級の敵と化す。イデオロギーの基準が「正しい」から「面白い」にズレゆく。ストリートの思想は、点と点をつなぐ線のボトムアップ実践で、音・映像・マンガなど非言語で表現される。この運動を80年代の文化から説き起こす。


それは毛利さんの半生記でもある。そしてぼくは毛利さんの学部・ゼミの2年先輩として、ときに近く、ときに遠くで、同じ時間を経てきた。自分の半生も鏡写しにされ、どきどきする政治、思想、ポップ、メディア史書である。

 


まずは毛利さんが京大の学部生のころ、浅田彰さんが導いた85年ガタリ来日の思想・文化論から説き起こす。80年代、学生運動後に大学と知識人は変容し、ニューアカデミズムが大学の周縁・非主流から生まれた。運動は劇場ないし工場としての都市が現場となった。


ここでやおら「パンクロックとDiY的インディーズ文化」と毛利節が炸裂する。ピストルズ、トーキングヘッズから、フリクション、INU、アーントサリー、そして京都大学西部講堂「ビートクレイジー」という、われらが地下の「運動」に言及なさる。岡崎京子トーキョーガールズブラボーに対する京都の「EP-4」となると、歴史秘話にビームを当てられたやに覚醒する。そんな時期、そんな場所でしたね。そこにぼくもいました。


毛利さんは東京の広告代理店で活躍する。ぼくも霞が関に籍を置く。冷戦が崩壊し湾岸戦争に至る。そのころぼくらは暇でもないのにヒマ潰しに「長寿の秘訣」というバンドを組んで、ライブもせずに渋谷のスタジオで音を出していた。他のメンバーは大蔵省の官僚と農水省の官僚だった。ネットはまだない。ブログもない。ツイッターもない。やみくもにがなる表現しか持ち得ていなかった。未来に毛利さんが東京芸大の音楽の教授になると知っていたらもっと一生懸命やった。


 



仕事のようなことを一緒にしたこともある。

92年。高齢社会において必要となるメディアの姿は。郵政省政策課でぼくが担当したテーマを電気通信審議会に問うたものの、通り一遍の答えしか返らないため、ウラ委員会を作った。いとうせいこうさんを座長に、しりあがり寿さん、伊藤ガビンさん、AV女優の豊丸さん、宜保愛子さんらが委員となった。会議は2時間かけて「ニューな茶のみ環境を考えるハイエージメディア対策本部」という研究会の名称を決定して終わった。廊下を歩く豊丸さんが記者にみつかり何事と問題視された。


しかしまとめた報告書は濃厚だ。脳のダウンロード、表象のみでのコミュニケーション、盆栽翻訳通信などが提案された。その中で、毛利委員がネット社会を展望し、サイバー空間に生きるSF小説を寄稿した。ぼくは衝撃を受けた。ネットはまだない。

しかしこれは必然的に、来る。毛利さんが「いちやさんは必ずこっちに世界に行きますよね~」と言ったのを覚えている。ぼくは役所で出世するので、なんでやねん、と思っていたが、その数年後、ケロリ辞めてそっちの世界に行くことになった。


ところでその報告書は立派な紙に、ピコピコ鳴るおもちゃのおまけ付きで発行した。そんな予算はなかった。たしかケンカ相手の通産省の何かのおかねをうまいことロンダリングして作ってもらったものだ。なんやかんやユルかった。

 

 


毛利さんはロンドンに留学なさる。カルスタ、文化研究を日本に持ち込まれる。ぼくもそのころ役所からパリに派遣され、外から日本を見た。冷戦が崩壊し湾岸戦争に至り、日本はオウム事件が起きる。ネット時代が幕を開ける。日本では橋本龍太郎内閣で新自由主義が政治の主流となり今に至る。ぼくはその内閣の省庁再編で役所を辞し渡米する。


ネグリ=ハートの帝国の時代となり、911からリーマンショックを経験した。大波はアメリカ発だった。が日本でもストリート思想が高まった。貧困・格差は国民的なリアリティとなった。毛利さんは、ストリートの思想家のほとんどがミュージシャンやアーティストだという。アーティスト的な生活が人々に浸透しているという。以後それは濃くなっただろうか。


09年から24年までを埋める増補にて。seals以降、官邸の前でライトなデモが頻発している。特に大学生がストリート活動を担うようになった。311やコロナを経て、政治の脱都市化が進む。ストリートの思想は市民権を得て、地方に広がっただろうか。


長らく政治が安定していた、ほぼそれだけが強みだった日本は、増補版が出た後も急変を見せ、喜劇のように不安定となった。多党政治化し、若者は既成の政党を離れて拡散している。ストリートの賑わいが投票行動に表れているように見える。世界も反トランプやパレスチナ支持などストリートは賑やかだ。どうなる。どうする。まだしばし毛利さんにはストリートにて観察し、分析し、読み解いていただきたい。

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