地デジ完成期日の2011年7月まで1年余。
アナログからデジタルへの移行に当たって一つの課題であったダビング10問題は自民党政権下の2008年6月にひとまず決着したのですが、その後もこれを巡り火種が絶えません。本件は、政権交代時の霞ヶ関を象徴する事例なので、少し振り返ってみます。
2004年に放送局とメーカーとの間で決めたコピーワンスが不評につき、総務省情報通信審議会の場で見直し論議が進められ、2007年夏「権利者への適正な対価の還元」を条件にダビング10方式へ移行することが合意されたもののさらに紛糾。対価の還元を私的録音録画補償金の拡充で行うべきとする権利者と補償金は削減・廃止すべきとするメーカーとが対立し、膠着状態となったのです。
ぼくはダビング10移行への合意を確認するためのWGの主査に就いたのですが、もはやお手上げ状態となっていました。そして2008年6月17日、やっと関係省庁が調整に動き、経済産業省と文部科学省とが補償金をブルーレイディスクに拡大することで合意し、両大臣が記者会見を行いました。しかし、両大臣が妥結しても、当事者は納得しませんでした。
そして2008年6月19日、情報通信審議会の専門委員会における最終局面。権利者代表が「対価還元策」を引き続き議論することを条件に「ダビング10移行容認」発言が出され、一気に合意が形成されました。WGも両大臣もまとめられなかったものを、民間が自主的に折り合った形です。
コピーワンスとかダビング10とかいうのは、法令の話じゃなくて、民間の決めごとです。だからもともと民間どうしでナシつければよかったんです。でも、そうは行きません。放送局=総務省、メーカー=経済産業省、権利者=文化庁とバックに所管官庁があるからです。
ならば本来、その官庁同士が調整に汗をかくべし。昔ならこれは早い段階で官庁同士の戦争になっていたでしょう。膠着したあと、官邸や自民党族議員に話が持ち込まれ、裁定がなされて終戦協定が結ばれていたでしょう。
2008年妥結の際、最後に関係大臣が出てきて、合意も得られ、会見も開かれました。ところが、それでも当事者は納得しませんでした。委員会では、消費者代表から、クローズドな調整手法への批判も出される始末。結局、官の仕切りとは異なる形で民が折り合いをつけたわけです。
これは一体どうしたことか。そう、霞ヶ関の調整機能が不全となっていたということです。官僚たちの夏は遠くなりました。民の対立を裁く実力も足腰を動かす体力も、もう霞ヶ関にはありません。当時、これら関係省庁を合体して情報通信省を作るというアイディアが取りざたされましたし、民主党政権は日本版FCC構想を掲げましたが、どっちにしろこの状態では新組織を作ったところで民間はついてきませんぜ。
ひとまずダビング10が始まり、1年半が過ぎました。補償金の整理は、それとは別に文化審議会の場で続き、「対価還元策」も課題として残されました。ですが結局、前進はなく、ハードとソフトの不毛な対立構造だけが残っています。霞ヶ関にはこれを調整する動きはなく、政権だけが移行しました。
これは、ハード・ソフトの所得分配と市場形成というデジタル産業政策の本丸に属する案件です。民主党政権はどう裁くか。裁かないか。こういう政策に腰を落ち着けて対応してもらいたいところです。
[手続きコピペ Fomalities Copy & Past]を提唱している丸山です(技術的な事はヌキで…笑。
返信削除映像などにおいては、コピーした時点で正当な手続きによる課金ができれば、こんな議論はしなくてよいのでは…と思っています。データの劣化なくコピーするならいくら。ダウンコンバート(解像度を落とすとか音質を下げるとか)なら割安でいくら…とか。インターネット時代においては、[正当な手続き](不当な手続きというのが考えにくいので単に[手続き]といいますが)を経たうえでのコピーならば、何度コピーしようとその分正当な課金、権利者への配分が可能なのではないか。
…そんなことを考えていたりします…
これはたぶん、今後僕が勤めているような公共図書館いおける資料複写においてもいえることで、すでにインターネットに接続したコピー機があります。現行の著作権法第31条によって図書館では資料の一部分の複写は正当な利用としてみとめられていますが、「お金を払ってでも全部の複写が欲しい」という方も少なくはありません。そんな際にも[手続き複写]の手だてがあれば、問題は解決すのではないか…と思うのです。
この問題の解決は、権利者どうしでの話し合いではなく、僕は[技術論]で解決する事案だと思っています。